Research Abstract |
本研究の目的は,スラブ起源流体によるマントルウェッジの変形変成作用である蛇紋岩化のプロセスと研究代表者がこれまでに進めてきたカンラン岩の研究と総合して,マントルウェッジの流動・変成過程を明らかにすることである.平成22年度は,申請書に要望していた本研究の核となる分析装置:走査型電子顕微鏡(HITACHI S-3400N, Oxford Channe 15+INCASynergy)を導入した.研究実績としては以下の通り.研究計画に従ってマリアナ海溝南部陸側斜面の海底面調査をしんかい6500によって実施した.その他パレスベラ海盆ゴジラメガムリオンの蛇紋岩の弾性波速度測定を予察的に行い,非常に遅い弾性波速度をもつことを明らかにした.蛇紋岩の高温高圧変形実験に加え,天然に産する蛇紋岩の変形組織解析を行った.その結果,伊豆小笠原弧の深海底から採取された蛇紋岩はマントル条件での剪断変形を受けていることが分かり,強い結晶選択配向を示した.このことは,伊豆小笠原弧のプレート境界に産すると期待される蛇紋岩が顕著な地震波異方性を持つことを意味し,地震波異方性からマントル内部での蛇紋岩の存在(ならびに水の存在)を検出できることを示唆している.蛇紋岩試料中のオリビン,アンチゴライトの結晶方位分布と,これらの鉱物単結晶の弾性定数を用いて,弾性波速度のフォワード計算を行い,測定データとの比較を行った.その結果,測定された速度は,下限であるReuss平均に近い低速度であることが分かった。とくに,この傾向は,岩石の面構造に垂直に伝播する波について顕著であった(Watanabe et al., in press).このような低速度をもたらす要因として,(1)アンチゴライトのつくる層構造,(2)薄い板状という形状が考えられる.単純なモデル計算を行ったところ,(1)の寄与はあまり大きくないことが分かった.今年度はさらに(2)について計算法の開発を進める.
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