2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22244067
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
平島 崇男 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90181156)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平田 岳史 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10251612)
大沢 信二 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30243009)
下林 典正 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70235688)
三宅 亮 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10324609)
河上 哲生 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70415777)
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Keywords | 変成岩 / 深部流体 / LA-ICP-MS |
Research Abstract |
プレートの沈み込帯で生じる地震や火山活動などの諸現象の誘引は、プレートとともに沈みこむ岩石から放出された揮発性成分(深部流体)である。しかし、「深部流体」そのものである地下深部岩石中の「流体包有物」は、その微小なサイズ(数ミクロン)ゆえ研究が立ち遅れている。 この課題に対し、京都大学の岩石鉱物研究グループは、世界各地の地下深部岩石を用いて、脱水反応の起こる深度や脱水量の定量化、流体包有物の主要・微量成分分析などの研究を展開している。また、京都大学の温泉水研究グループは、温泉水のLi/B比と温泉地下のプレート上面深度とに相関性があることを見いだしている。本研究では、物質科学グループの研究により形成深度が明らかな地下深部岩石中の流体包有物のLi/B比を、火山活動を受けていない島弧に噴出する湧出温泉水のデータと比較検討することにより、プレート沈み込み帯での流体循環過程に大きな制約条件を与えることを大きな目標としている。 近年、「地下深部岩石に含まれる多相固体包有物(Multi-phase solid inclusions : MSI)は鉱物中にトラップされた地下深部流体あるいはメルトの化石」との考えが提示された(例えばFerrando et al., 2005)。この前提が正しく、かつ、MSI中のLi, B, Clの濃度比が深部流体発生の深度の指標となるならば、MSIが有する鉱物化学的情報から、間接的ではあるが、プレート収束域の流体活動に関する重要な情報を獲得できることになる。 本研究では、地下深部岩石に含まれる MSIや含水鉱物の超微細組織観察および超高感度化学組成分析システムを構築し、ミクロからマクロスケールでの流体・固体循環過程の実態解明を目的とする。本研究による成果は、沈み込み帯での物質循環の解明という学術的に重要な意義を持つ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
・H22年12月に導入した新型エキシマレーザーアブレーション装置(New Weave Research社製 NWR193-KSP)の性能検査がH23年3月に終了したので、H23年4月から本機器を平田研究室所有の誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS: ATTOM)に組み込み、数十μ径の多相固体包有物(MSI)を構成する含水鉱物の微量元素分析システムの立ち上げを図った。この作業は、主として教務補佐員の牧とRustma Orozbaevが担当した。この作業を続ける過程で、特定の元素が一定の濃度を超えると、ATTOMに設置された複数の検出器が自動的に切り替わる構造的欠陥(バグ)が判明した。このバグはメーカーによるATTOMのハードウエアーの更新が必要であることが判明し、当初目的の分析作業の構築を延期せざるを得なくなった。 ・メーカーによるハードウエアーの更新を待つ間、京都大学が保有する世界各地の地下深部岩石試料中でのMSIや流体包有物の研究を行った。 三波川変成帯のエクロジャイトユニット近傍の変成泥質片岩の主片理と平衡に発達した石英脈からクラッシュリーチング法で濃集した流体包有物は高いLi/B比を示すことを見出した(Yoshida et al., 2011)。この値は、エクロジャイト相で蛇紋岩からの脱水流体(Scambelluri et al., 2004)や有馬型熱水(風早ほか、2011)の値と類似しており、深部流体の起源を考察する上で、画期的なデータの提示に成功した。 キルギス共和国Aktyuz HPエクロジャイト中のざくろ石のマントル部からNa雲母+十字石+赤鉄鉱からなるMSIを見出した。これらのMSIの平均化学組成は著しくNaに富むがCaをほとんど含んでいない。これらの事実はエクロジャイト形成中にNaに富む流体の浸潤が示唆された(Orozbaev et al. 2011)。
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Strategy for Future Research Activity |
・平田研究室所有の誘導結合プラズマ質量分析装置(ATTOM)に設置された複数の検出器が自動的に切り替わる構造的バグが改良され次第、教務補佐員の牧とRustma Orozbaevが中心になり、数十μ径のMSIを構成する含水鉱物の微量元素分析システムの立ち上げを図る予定である。 ・三波川変成帯のエクロジャイトユニット近傍の変成岩の主片理と平衡に発達した石英脈からクラッシュリーチング法で濃集した流体包有物は総じて高いLi/B比を示すが、その値は大きくばらつくことを見出している。今後はその原因を解明するために、母岩と石英脈、並びに、流体包有物の組織解析を精密化し、流体活動の時期、及び、各活動時期の流体の主化学組成などを研究することにした。 これまでクラッシュリーチング法を適用した試料は主に日本の変成岩試料に限られていた。日本列島に分布する変成岩の最高形成深度は地下約60kmである。これらの資料に対し、Yoshida et al. (2011)は興味深いデータを提示したので、より高深度で形成された岩石中から深部流体の濃集を試みることにした。キルギス共和国の高圧変成岩を用いた予備調査で深部流体活動に関して有意義な結果(Orozbaev et al. 2011)が得られているので、今後は、同共和国のMakbal Complexの超高圧変成岩を調査対象に加える予定である。この超高圧変成岩は地下90kmで形成されたとされており(Tagiri et al., 2010)、日本では得られない貴重なデータが獲得できると期待される。 ・岩石学的ルーチンワークとして、X線マイクロアナライザーなどの既存分析機器を用いて、MSIを含む試料の構成鉱物のミクロンサイズでの組成分析や2次元元素マッピングを実施し、MSIや流体包有物が母相に取り込まれた時、あるいは、MSIが結晶化した時の温度圧力条件の解析を継続する。
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Research Products
(16 results)