2012 Fiscal Year Annual Research Report
貧酸素化が進行する閉鎖性内湾の環境修復:大村湾をシミュレーターとした検証実験
Project/Area Number |
22248022
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
中田 英昭 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 教授 (60114584)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松岡 數充 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 教授 (00047416)
梅澤 有 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 准教授 (50442538)
和田 実 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 准教授 (70292860)
笠井 亮秀 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80263127)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 水圏環境 / 保全 / 環境修復 |
Research Abstract |
底層水の貧酸素化が進行する大村湾中央部の海底に設置した散気管からの送気量を増やし、6月から9月まで散気による貧酸素環境の改善効果に関する実験を実施するとともに、貧酸素化の進行過程や植物プランクトン・微生物群集等のモニタリング、栄養塩負荷の動態や生態系のエネルギーフローに関する解析を継続した。研究成果の要点は以下の通りである。 (1)大村湾の底層では貧酸素化が進行したが、散気実験海域の近傍では、散気によって誘起された上昇流が鉛直混合を促進する上で一定の効果を示すことが分かった。また、貝類養殖場で行った散気実験から、この上昇流が珪藻類の増殖を促進し渦鞭毛藻類の増殖を抑制することが示唆された。(2)有害赤潮原因種の出現状況について、6月下旬~7月上旬にDictyocha fiburaやChattonella globosa、7月中旬~8月上旬にChattonella antique/marinaが湾のほぼ全域で赤潮を形成したことが分かった。(3)堆積物とその直上水の全酸素消費速度が2011年に比べて2倍に増加し、化学的な酸素消費の寄与が大きかったことが分かった。潜水観察の結果、海底に広範囲にわたり微生物マットが発達しており、上記の酸素消費活性の変化との関連が注目された。 (4)陸域と堆積物由来の栄養塩負荷を定量し、1970年代以降の栄養塩動態を明らかにした。窒素については、陸域からの寄与が減少する一方で堆積物からの寄与が増加し、それによりNP比が増加したが、生態系に影響を与えるほど大きな変化ではないと推定された。(5)魚類の窒素・炭素安定同位体比の分析結果から、魚類の多くがカタクチイワシを餌料として利用しており、植物プランクトンを起点として、動物プランクトン、カタクチイワシ、大型魚類(漁獲対象魚類)へとつながるエネルギーフローが大村湾生態系の基盤を形成していることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大村湾中央部の海底に設置した散気管からの送気量を増やし、ほぼ計画通りに2012年6月から9月まで実海域における散気実験を実施することができた。散気によって誘起される上昇流が観測によって確認されており、大村湾沿岸の貝類養殖場で上記の実験と並行して実施した散気実験の結果から、この上昇流が植物プランクトン群集を変化させる可能性があることが示唆された。次年度は湾中央部において、この点についても検証実験を行うことにしている。堆積物およびその直上の微生物による酸素消費活性や栄養塩負荷の経年的な動態、生態系のエネルギーフロー等についても、それぞれ示唆に富む結果が得られており、これらの成果の総合的な取りまとめが次年度の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
散気による貧酸素環境の改善効果に関する現場実験と環境・生物群集等のモニタリングを継続するとともに、これまでの研究成果の総合的な取りまとめを進める。それにより、陸起源負荷の適切な管理や生物機能を活用した環境改善等と組み合わせた実海域規模の環境修復システムについて、その全体像を提示できるようにしていくことを目標とする。学会等で研究発表した内容を研究論文として印刷公表する準備を進めており(一部はすでに投稿中)、その点にもさらに力を入れる。現時点では研究計画の変更等は必要ない。
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