2011 Fiscal Year Annual Research Report
ウォーカー循環系における大気振動と山岳の森林限界の形成
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22255002
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
北山 兼弘 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20324684)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡田 直紀 京都大学, その他の研究科, 准教授 (40335302)
蔵治 光一郎 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (90282566)
清野 達之 筑波大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (40362420)
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Keywords | 生態学 / 植物学 |
Research Abstract |
気象班はガラパゴス諸島イサベラ島シエラ・ネグラ火山を踏査した上で、気象測器(AWS)を雲霧帯(350m)、移行帯(875m)、山頂部の乾燥帯(1000m)の3標高に設置した。AWSはCR1000データロガーと各種センサーからなり、それぞれにおいて雨量、大気温湿度、光量子、気圧、風向、風速の測定を開始した。平成22年度に設置したボルネオ島キナバル山のAWSについては、センサーの保守とデータ回収を行った。 生理生態班は、イサベラ島シエラ・ネグラ火山とキナバル山の森林限界付近の主要樹木の生理生態的調査を行った。シエラ・ネグラ火山においては、13か所に植生調査区を設置し、森林限界付近の植生の構造と組成を明らかにした。主要な低木種については、ポロメーターを使用して日中の蒸散速度を調べることにより、乾燥に対する各種の適応を明らかにした。さらに、これらの種から枝葉を採集して固定液に浸し、日本に持ち帰った。持ち帰った葉試料については、ミクロトーム切片を作成して光学顕微鏡により解剖特性を調べ、乾燥への解剖学的な適応を明らかにした。キナバル山においては、森林限界を挟んだ異なる標高から優占種の林冠部枝シュートを採集し、実験室に持ち帰りプレッシャーチャンバーを用いた水ポテンシャル測定を行った。さらに、これらについては、枝部分の水の通導試験を行った。 キナバル山の樹木限界付近に優占するLeptospermum recurvumをモデルとして、乾燥に対する適応放散の生態遺伝学的解明を試みた。同種において開発したマイクロサテライト中立遺伝マーカーを使い、集団内と集団間の遺伝子流動の大きさを調べた。さらに、土壌水分の異なる複数のハビタットにおいて、同種から林冠部枝シュートを採集し、葉の形質と乾燥適応の関係について生理生態的な測定を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進展していると判断できる。当初の計画では、平成22年度に全ての気象測器の設置を終える予定であったが、悪天候のためにガラパゴス諸島での設置が1年遅れてしまった。しかし、困難な場所ながら、本年度には全ての気象測器の設置が完了し、世界に先駆けてWalker循環影響下での山岳気象のデータ測定が進展したことは、評価できる。また、ガラパゴスやボルネオにおける、森林限界付近での樹木の乾燥適応を明らかにするための生理生態試験もほぼ予定通りに進展し、貴重なデータが蓄積しつつある。さらに、生理生態試験に加えて、遺伝学的な観点から樹木の乾燥適応の解明を試みたことは特筆に値する。遺伝学的研究は当初計画にはなかったが、適応の遺伝学的な基盤を集団遺伝の観点から明らかにすることが、大きな研究の展開につながると判断し、これを開始したところ、大きな成果につながりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に、当初の計画に従って、ガラパゴス諸島とボルネオ島の熱帯高山における大気乾燥の時空間変動に関する気象観測とこれに対する樹木の応答の生理生態調査を継続する予定である。一方、当初計画にはなかった、樹木の乾燥適応の遺伝学的な研究が大きな成果につながりつつあり、今後はこれを補強していきたい。とくに、樹木の乾燥適応に大きな意義を持つ、葉のトライコームに着目し、森林限界付近に出現する樹木のトライコームの多型とトライコームの機能遺伝子の関係について解析を加えていきたい。
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Research Products
(5 results)