2011 Fiscal Year Annual Research Report
人文学研究を促進する協働のための情報共有基盤に関する研究
Project/Area Number |
22300083
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
林 晋 京都大学, 文学研究科, 教授 (40156443)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
相原 健郎 国立情報学研究所, コンテンツ科学研究系, 准教授 (90300706)
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Keywords | 歴史情報学 / 協働作業支援 / 手書き史料情報処理 |
Research Abstract |
23年度はネットワーク版のHCP環境とクライアントの構築を行なうことを方針としていた。しかし、新たな課題が歴史研究の現場での適用で次々と浮かび上がり、それへの対応と、SMART-GSの正式公開のためのシステム整備のために、ネットワーク版SMART-GSの構築は予定していたよう進まなかった。しかし、その反面、予定していたネットワーク機能開発のかわりに行うこととなったSMART_GSの諸機能の新規追加や改善により、SMART-GSの使い易さ、特にリアルタイムな協調での使いやすさが飛躍的に向上した。また、この研究を通して、本研究の申請時に我々が思い描き、また、申請書において提案していた「協働」のイメージが、田辺元文書のような、極めて難読な文書の解読には十分ではなく、「複数の異なった学問的背景と専門知識を持つエキスパートによる、リアルタイムな議論を通しての協働」という、今までに想定したことがない協働の形が必要であることが判明し、これについて、科研費のチームだけでなく、ユーザである永井などの参加を得て、田辺元テキスト研究の現場での実例をもとに新たな協働モデルを構築した。旧モデルは現在のWEBサービスでいえば、Wikiのレベルに対応する。現在、WEB上での協働作業といえば、ほとんどこのレベルのものであり、我々も、それを超えることができないでいたわけである。このモデルではユーザ間のインタラクションはリアルタイムであることを想定していないのである。しかし、最近、Google Docsのようなリアルタイムに同一文書を2名以上のユーザが編集するというモデルが普及し始めている。我々も、この程度までのものは想定していたのだが、ユーザ間のワークフローのモデリングが十分でなかった。つまり、適当なネット会議のツールなどを使うだけで十分な協働が起きるだろう、また、十分な情報共有ができるだろうと想定していた。これは基本的には二人のユーザが、ちょうど、電話機の双方のピアとして、交互に会話を進めているというモデルなのである。これは実はいわゆるコルーチン程度のインタラクションであり、それほどの複雑なものではないのだが、実際の現場での「知的な動線」は、これとは異なっていた。実際に起きた例は、資料のある部分をドイツ語、漢語、日本語で書かれていると想定して読んでいた際、担当者もリーダも読めなかった文字列、日本語、漢字の崩れたものと想定されていたものが、実は想定外の古代ギリシャ語の哲学用語であることが、担当以外の参加者で偶々ギリシャ語の知識を持つものにより「割り込み」として指摘された。この様な、「第三者が突然割り込み知的作業の動線を創造的に乱す」という形のインタラクションは、我々は想定しておらず、しかも、この様な想定を超える割り込みこそが田辺文書のような複雑で難読の文書を読むときには必要だったのである。このために司会、参加者、担当者、割り込み、割り込み可能なタイムライン、の概念を含む、新たなリアルタイム協働のモデルを構築したのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ネットワーク版の開発が計画どおり進んでいないことは、9で述べたとおりである。しかし、今年の作業はネットワーク版のβ版を作ってから行う予定だった作業を先取りして進めた面が多く、23年度と24年度の作業が交換された面が多いので、この遅れは十分回復可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
ネットワーク版の完成を急ぎ、また、同時に、研究を通して明らかになった、新たな協働モデル実装へ向けての新プロジェクトへの準備的実験も行っていく予定である。また、今年度より近畿大学の政治史研究社近藤のチームが、SMART-GSを使う、新たな現代政治史の科研費プロジェクトを始めることとなった。すでに近藤と林が相談を行って、新たなアイデアなどもでており、これへの対応も行っていきたい。
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Research Products
(2 results)