Research Abstract |
購入時期(開板時期)が明確なオランダ・ライデン民族博物館や,松本の日本浮世絵博物館,東京都立中央図書館,千葉市美術館などが所蔵する文政期渓斎英泉の「契情道中双ろく見立て吉原五十三対」(55枚),「新吉原八景」(8枚),「廊中八契」(8枚),「吉原要事」(12枚),原遊君七小町」(7枚)などの揃い物について,描かれた花魁の名前を慶應義塾メディアセンター貴重書室が保有する渋井コレクション所蔵の文化・文政期「吉原細見」に掲載されている花魁の名前と照合することにより,これらのシリーズの開板時期を特定する事に成功した.さらに,描かれた花魁の属性情報としての「紋」に注目して検討を行ったところ,描き込まれた「紋」は単に属性情報propertyとしての意味を持つだけではなく,キリスト教の聖像画における「持ち物」と同様に花魁を一意的に特定できるattributeの意味をも有することがわかってきた. 花魁の名前は代替わりの際に世襲されることがある.そこで,遊女絵を詳細に調べると,見世によって,代替わりの際に紋を変える場合と,同一の紋を名前と共に継承する場合のあることが判明した.前者の例として,松葉屋の「装ひ」および「代々山」,さらに,海老屋の「鴨緑」の例を挙げることができる.後者の例としては,姿海老屋の「七人」,「七里」などの例が挙げられる。一方,花魁が退任すると,同じ絵を使って名前だけを変え,絵を使い廻すことがある.シリーズによっては,花魁の名前を変えても紋は変えない場合もある.「契情道中双ろく見立て吉原五十三対」は,これに該当する.一方,「吉原要事」では,花魁の名前が変わると紋も,これに合せて変化させ,丁寧なつくりをしている.
|