2011 Fiscal Year Annual Research Report
聴覚の獲得メカニズムに関する生理学的・分子生物学的解析
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22300126
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小田 洋一 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 教授 (00144444)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高木 新 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 准教授 (90171420)
谷本 昌志 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 助教 (30608716)
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Keywords | ゼブラフィッシュ / マウスナー細胞 / 聴覚 / 触覚 / 網様体脊髄路ニューロン / カリウムチャネル / 網様体脊髄路ニューロン / 逃避運動 |
Research Abstract |
今年度は,豊富な遺伝学的・発生学的背景を持ち,分子生物学的アプローチから生理学的・行動学的アプローチまでを駆使できるゼブラフィッシュを用いて,胚や稚魚の間に新しい感覚を獲得することによって変わる中枢ニューロンの役割を調べた.動物が侵害刺激からすばやく逃げる逃避運動は,もっとも基本的な感覚運動制御であるが,ゼブラフィッシュの逃避運動は後脳に左右1対存在するマウスナー(M)細胞によって駆動されていることが知られている.ところがこれはゼブラフィッシュが聴覚を獲得して十分発達してからであり,それ以前の逃避運動でのM細胞の役割はこれまで不明であった.逃避運動中のM細胞のカルシウムイメージングから,(1)発達初期のまだ聴覚に応じない時期には,触覚によってM細胞が発火し逃避運動が駆動されるが,(2)発達が進むとM細胞を発火させる主たる入力が触覚から聴覚に切り替わること,および(3)どちらの時期においても最短潜時の逃避運動にはM細胞の活動が必要であることを見出した(J.Neurosci.2012に発表).すなわち,最もすばやい逃避運動はいずれの時期においてもM細胞の活動によって起こり,M細胞の主入力が触覚から聴覚に変わることによって,ゼブラフィッシュは新たな感覚によってより俊敏な逃避運動を達成する.興味深いことに,聴覚を獲得する時期に一致して,M細胞の発火特性は他の網様体脊髄路ニューロンと同じような連続発火型からM細胞独特の単発発火型に変化する.この要因はそれぞれKv1とKv7サブユニットによって構成される2種類の低閾値型カリウムチャネルが発現によることを見出した.2種類のKチャネルともに静止膜電位付近から活性化するが異なる時間経過で開く.それらを阻害すると,M細胞は連続発火を示した.以上の研究成果は,新しい感覚の獲得に対応して異なる興奮性を持つ,脳ニューロンの機能的な分化の分子基盤を明らかにしたものとして注目される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の研究課題の「内耳有毛細胞の音感受性の獲得」に関しては,有毛細胞の起源まで明かにし,機械受容の開始からより高感度の音受容に至る過程をすべて解析した.聴覚入力を受け音の開始点をコードする「M細胞の特異的な興奮性」については,2つのカリウムチャネルの発現とそれぞれの特性を明かにすることができた.さらに逃避運動中のM細胞の活動計測等から,聴覚獲得前後の時期での「M細胞が逃避運動の駆動に果たす役割」を明確に示すことができ,当初の目的を達成した.
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Strategy for Future Research Activity |
M細胞の特異的な発火特性が,2つの低閾値型カリウムチャネルの発現によることが,本研究で明かになった.この発火特性がM細胞の運動制御においてどのような役割を果たすかが,今後の重要な課題となる.M細胞特異的に遺伝子発現できるトランスジェニック・ゼブラフィッシュを活用して,M細胞だけでこれらのカリウムチャネルの発現を操作し,M細胞の発火パターンや逃避運動に及ぼす効果を調べる.また,M細胞の興奮性の変化が聴覚の獲得時期に現れることは,両者の間に何らかの関係があることを示唆していて興味深い.聴覚の獲得あるいはその後の発達を阻害したゼブラフィッシュで,M細胞の興奮性がどのように変化するかを調べ,この可能性を検討する.
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