Research Abstract |
前年度までの研究において,大脳皮質を中心とした高位脳に血液を送る内頸動脈経路と中脳,小脳,延髄といった下位脳への血液を送る椎骨動脈経路とでは運動時の脳血流応答が異なることが明らかとなった.二つの経路間で異なる脳血流動態をもたらす機構として,「脳血流の自動調節因子である動脈血二酸化炭素分圧(PaCO_2)に対する応答特性が経路間で異なることが関与している」と仮定し,本年度はこの仮説を検証した.10名の健康な若年被験者において,PaCO_2の変動に対する内頸動脈経路と椎骨動脈経路における血流応答の感受性を比較検討した,高炭酸ガス(PaCO_2が3%および6%),通常炭酸ガス,低炭酸ガス(過換気誘発による)という条件における,内頸動脈(ICA),外頸動脈(ECA),椎骨動脈(VA),中大脳動脈(MCA)および脳底動脈(BA)の血流量または平均血流速度を超音波ドップラー法により計測した.PaCO_2は呼気終末二酸化炭素分圧から算出した.ICA,VA,ECA,MCA,BAにおける「PaCO_2-脳血流量」または「PaCO_2-平均血流速度」間の関係式を算出し(指数回帰または直線回帰),その傾きをPaCO_2感受性とした.その結果,(1)内頸動脈経路(ICA,MCA)のPaCO_2感受性は椎骨動脈経路(VA,BA)よりも有意に高い値を示した.(2)また総頸動脈経路から分岐するECAと比較しても,内頸動脈経路(ICA,MCA)の感受性は有意に高い値を示した.このように,高位脳の血液循環を担う内頸動脈経路においてのみ高いPaCO_2感受性がみられたという結果は,前年度までに報告した運動負荷に対する二つの経路間の脳血流動態の違いを説明する機構になると考えられた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の実験計画では,運動時における高炭酸ガス摂取時の実験条件を設定していたが,予備実験において生体への負担度が大きすぎると判断したため,安静時における高炭酸ガス摂取条件のみに変更した.実験条件としてのPaCO_2変動幅は小さくなったが,二つの脳動脈経路におけるPaCO_2感受性の相違は明確に観察できた.また論文としても採択されたので順調な進展であると思われる.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では4つの検討課題を予定していたが,計測機器の準備の関係から課題2の実施を遅らせ,課題3と4を先行させた.このように実施順が当初の計画順とは異なるが,残されている課題2については平成24年度で実施し,最終年度として研究成果全体をまとめる予定である.
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