2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22310012
|
Research Institution | Prefectural University of Kumamoto |
Principal Investigator |
堤 裕昭 熊本県立大学, 環境共生学部, 教授 (50197737)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
門谷 茂 北海道大学, 大学院・水産環境科学研究科, 教授 (30136288)
高橋 徹 熊本保健科学大学, 保健科学部, 教授 (70369122)
小森田 智大 熊本県立大学, 環境共生学部, 助教 (10554470)
|
Keywords | 有明海 / 貧酸素水 / 諫早湾 / 沿岸閉鎖性海域 / 成層化 |
Research Abstract |
有明海奥部海域において夏季に発生する貧酸素水は、梅雨期の大雨に大量の河川水が流入して塩分成層が形成され、その成層の躍層より下層で起きる現象である。2011年の場合、梅雨期が例年より長く続き、水温がもっとも上昇する8月上旬でも天候不順が続き、強烈な貧酸素水の発生は起きなかった。しかしながら、有明海奥部で8月下旬に実施した水質、海底環境、底生生物群集の分布調査の結果、水深20m以浅の有明海奥部全域で海底が近年泥化していることが判明した。有明海奥部の湾口側は砂底が広がり、底質環境の明確な境界線が福岡県柳川市の矢部川河口より有明海を横断して佐賀県太良町沖に達し、諫早湾湾口沖を南下していた。この底質の粒度組成の明瞭な境界線に対応して、海水にも潮目と呼ばれる水塊の境界線がほぼ同じ海域に発生していた。この境界線は、毎月実施している有明海を縦断する水質および海底環境の定期調査でも、ほぼ周年にわたって観測された。奥側の海水は白濁し、塩分成層が常に形成されている。湾口側の海水は透明度が高く、塩分も高く、鉛直混合が盛んに起きていた。過去の調査例と比較すると、少なくとも1989年の佐賀県による海底環境の調査では、泥底は有明海奥部の西側半分の海域に偏在し、それが東側に拡大したことを意味している。このような海底環境の変化は、潮流の変化を意味している。泥の堆積には、流動性の弱い潮流条件が必須であり、海底に堆積した細流分の再懸濁も置きにくくなっていることを示している。したがって、1990年代後半以降に有明海奥部では赤潮が頻発する傾向が認められ、貧酸素水まで発生するようになっている。これはすべて、海水の境界線の奥側の海域で起きている現象である。近年生じた潮流の変化が海水の境界線の分布を大きく改変し、その結果として奥部全域に泥底が拡大し、その海水で赤潮が頻発する塩分成層が発達し、そのことが貧酸素水の発生も招いているという結論を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
貧酸素水を引き起こす海水構造の特徴を掴み、その実態を構成する:水塊を特定することができるようになった。ただし、その水塊が発生する原因がどのようなことにあるのかが、明確な答えが得られていない。そのためには、現在、準備中である諌早湾干拓地調整池の水門が開放されて、1997年以前の潮流の状態が部分的にも回復された状態における潮流変化の検証が求められる。
|
Strategy for Future Research Activity |
もっとも深刻な貧酸素水は海底堆積物からの酸素消費に加えて、成層が形成された時の躍層直下における酸素消費も深くかかわっていることがわかってきた。この現象がきわだって発生するためには、梅雨期後に晴天が続く気象条件が必須条件として求められる。九州地方では典型的な気象パターンであると考えられるが、近年、異常気象が続き、典型的な夏の天気が発生しなくなっている。今年、研究の最終年であるが、求める気象条件が起きることを前提に調査を継続し、この現象の発生を逃さないような観測体制を準備することにする。
|
Research Products
(6 results)