Research Abstract |
私たちはこれまでに蛋白質成熟に関わる小胞体内腔に存在する酵素protein disulfide-isomerase (PDI)が一酸化窒素(NO)の標的になることを明らかにしてきた.この反応においてNOはPDIの触媒部位に存在するシステイン残基チオール部に結合(S-ニトロシル化)する事実を証明している.一般に,蛋白質へのNO結合は重金属処理によって解除されることから,PDIはNOばかりでなく重金属,とくに水銀に対してより親和性を有しているのではないかと考え,本研究に着手した.一方で,メチル水銀投与によって脳内でNO産生が上昇することが報告されていることから,PDIのニトロシル化の有無を検討した.その結果,以下のような成果をあげることに成功した. ラットにメチル水銀を5mg/kg/dayで12日間経口投与し,急性水俣病モデルを作成した.このラットの脳を部位分けし,S-ニトロシル化PDI(SNO-PDI)形成を調べたところ,大脳皮質/海馬などではまったくSNO-PDIは観察されなかったが,小脳においてのみ著しい形成が認められた.つぎに,その時間依存性について検討したところ,投与3日目から有意なSNO-PDI形成が検出され,時間とともに強いシグナルが得られた. 本モデルにおいてメチル水銀処理では小脳のみが特異的に傷害を受けることが知られている.SNO-PDIが小脳のみで観察されたこと,ならびに,神経細胞死に先んじて起こることから,メチル水銀の毒性発揮には一酸化窒素合成酵素を介したNO産生が関わること,ならびに産生したNOが神経細胞に作用し,小胞体に存在するPDIをSNO化し,酵素活性を負に調節している可能性が示唆された.この反応が起こる際に,小胞体内では未成熟蛋白質が蓄積することで小胞体ストレスが惹起されて,神経細胞死に連関することを明らかにしてきている.今後は,メチル水銀毒性にこの系がどのくらい関与しているのかを追求していく.
|