2012 Fiscal Year Annual Research Report
共生の宗教へむけて――政教分離の諸相とイスラーム的視点をめぐる地域文化研究
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22320017
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
増田 一夫 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (70209435)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊達 聖伸 上智大学, 外国語学部, 准教授 (90550004)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ライシテ / 政教分離 / 世俗化 / 共和制 / イスラーム / フランス / 移民 / 植民地 |
Research Abstract |
平成24年度における代表者および分担者の研究は、主に1)フランスのライシテをめぐるさらなる考察ならびにライシテ概念を共有するカナダ・ケベック州との比較、2)フランスの宗教事象学際研究センター(CEIFR)との関係強化、3)1970年代以降のフランス社会の推移の確認に充てられた。 上記1)について、分担研究者・伊達聖伸はライシテをめぐる3つのアプローチ(M.ゴーシェ、J.ボベロ、R.レモン)を扱った論考をはじめ、5件の論文を発表した。また代表者は、12月に、インターカルチュラリズムを説いた、「ブシャール=テイラー報告」の一方の執筆者であるジェラール・ブシャール氏(ケベック大学シクチミ校教授)を迎えての研究会を開催した。2)については、代表者が11月にパリに赴き、情報交換ならびにCEIFR編纂の『宗教事象事典』を各言語へと翻訳する際の諸問題について、発表、討論をおこなった。CEIFRとは、引き続き密接な関係を保ちながら研究を続ける予定である。3)については、9月にパリ第7大学教授エティエンヌ・タッサン氏を迎え、「新たなコスモポリタニズム概念」について考察、12月にはフランス国立科学センターのジャン=ピエール・ルゴフ氏と「1968年5月」以降フランス社会に起きた変化について意見交換をおこなった。 本研究には、6名の連携研究者がいるが、その方面でも特筆すべき成果が見られた。網野徹哉(東京大学大学院総合文化研究科・教授)は、初期ペルーにおける宗教・政治コンフリクトを論じた論考を発表し、第54回国際アメリカニスタ会議では、ペルーにおける聖母信仰に関する報告をおこなっている。また、長澤榮治(東京大学東洋文化研究所・教授)は、『アラブ革命の遺産』(平凡社、606頁)でアラブ社会を貫く思潮の数々について論じ、本研究の一方の焦点であるイスラーム圏について明瞭な思想地図を提供した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、分担研究者の伊達聖伸が、ヨーロッパの諸宗教を概観する一方で、フランスにおけるライシテ概念の3つのアプローチを論じ、さらに従来は左派の原理であったライシテが右派の原理へと移行しつつあるのではないかとの論点を示すなど、活発に研究成果を発表している。また、より歴史的な視点から、コント、トクヴィル、デュルケームを再訪しつつ、市民宗教の系譜を確認し、より通時的な枠組みのなかにライシテを位置づけている。 代表者は、「イスラーム・スカーフ問題」という「宗教問題」から現代フランスを読み解く視点に立ち、「スカーフ禁止法」が女性擁護の立場からも主張されたことに着目。さらにフェミニストたちの大半が禁止法支持にまわったことを重視して、フェミニスト運動内部における相違や対立を分析し、ライシテ論争とジェンダー論、植民地主義、人種主義の関連を考察した。昨年度中に成果は発表できなかったが、最終年度には一定のまとめをおこなうつもりである。 連携研究者の長澤榮治はアラブ革命の背景や影響を詳細に分析した力作『アラブ革命の遺産』(平凡社、606頁)において、宗教を含む広範な思想地図を描き出した。同じく連携研究者の網野徹哉は、ペルーにおいて征服者かつニューカマーの宗教であるキリスト教が受け入れられるプロセスを分析した論文を執筆し、国際学会にて発表もおこなっている。 以上の理由から、研究はおおむね順調に進行していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度5月に、主な対象地域であるフランスで政権交代が起こった。ナショナル・アイデンティティ論争をしかけたサルコジ氏が敗れたことの意味は無視できず、ライシテ概念そのものの変化よりも、移民系市民に対する姿勢の変化によって、ライシテ論争が沈静化する可能性があると思われる。他方で、困難の末に成立した同性婚の合法化については、カトリック教徒による大規模な反対運動が起こるなど、別の局面で宗教と世俗の対立が前面で出ることがあった。ある意味では、伝統的な「二つのフランス」(脱宗教/カトリック、左派/右派)が再登場したとも言えるだろう。本研究は必ずしも現代のみを対象とするものではないが、社会の推移に絶えず注意する姿勢は維持しながら今後も研究を続けたい。 今年度も、対象地域からの研究者を招いての研究会を開催する予定である。研究が進行する過程で、当初はあまり視野に入っていなかったカナダ・ケベック州の存在がクローズアップされた。今年度も5月にジョスラン・ルトゥルノー氏(ラヴァル大学教授)を招いての情報交換をおこなう。他の研究者については、現段階では調整中である。 本研究は、「共生」「政教分離」などをキーワードに広範な地域における宗教のあり方を分析、考察してきた。当初のテーマ設定からして、鋭く収斂するよりも、多様な様相および問題を緩やかに関連づけることを目標としている。最終年度の今年度は、ひとつの区切りとして、連携研究者、協力研究者も含めた報告書をまとめる予定である。海外の協力研究者の論文等で、わが国に紹介する価値があると思われるものの翻訳、掲載も検討しており、もっか交渉中である。
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Research Products
(7 results)