2011 Fiscal Year Annual Research Report
「文化現象としての源平盛衰記」研究―文芸・絵画・言語・歴史を総合して―
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22320051
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Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
松尾 葦江 國學院大學, 文学部, 教授 (70157254)
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Keywords | 源平盛衰記 / 絵巻・奈良絵本 / 本文流動 / 年表 / 中世芸能 |
Research Abstract |
今年度はデータ収集のため資料調査に出かけることが多かったが、調査先で得られた結果はさらに新たな調査や資料探索に発展した場合が少なくない。例えば鶴舞図書館や蓬左文庫における源平盛衰記整版本の調査から、乱版と無刊記整版本の関係を追究しようとする試み、あるいは源平盛衰記の注釈書の紹介、参考源平盛衰記の伝本調査から史籍集覧本の底本を推定しようとする試み、長門切の調査から派生して平家物語の断簡の研究など、今年度内には完結しなかったが今後発展していくであろう問題設定がいくつもあった。奈良絵本平家物語や画帖、屏風など収集した画像データの解析も来年度以降の成果が期待される。奈良絵本平家物語では新資料2点が市場に出現し、今まであまり知られていなかったフランス国立図書館蔵源平盛衰記画帖の基礎的調査も行ったが、研究対象となる絵画資料はこれからも増えていくと思われる。 室町文芸部会主催による伊東りさ氏の講演会では、中世のみならず近世の芸能・文化活動によって源平盛衰記が人々の間に浸透し、いわゆる「源平もの」のイメージができあがっていくことがよくわかった。我々の軍記物語観が、一種の「中世至上主義」に陥っていないかどうか、検証する必要を感じた。 歴史学部会主催による10月の講演会では、源平盛衰記には未踏のテーマが山積していることが痛感された。なおこの講演会に併せて、國學院大學図書館との共催で資料展示「平清盛と鴨長明-平家物語と方丈記」を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初に立てたI~Vのテーマの中、Iの年表作成は順調に進み、過半数の巻の原稿ができ、各巻のみならず1本化する試行も行った。IIの室町文芸、IIIの絵画資料との関係の調査研究も進んでいるが、一つの誤算は、24年度放映のNHK大河ドラマ関連の展示が行われたため、調査計画を立てていた絵画資料の一部が閲覧できなかったことである。24年度後半から調査を続行して計画を遂行したい。IVは講演会を開催し、多くの知見を共有したが、参考源平盛衰記の調査に関しては、東北大地震の影響で一部計画を中止せざるを得ず、時期を待つことになった。Vは担当者の校務の都合で、成果の公表は遅れているが、語彙の抽出などデータの蓄積が続けられている。
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Strategy for Future Research Activity |
22,23両年度の調査の結果をふまえて、研究成果になるよう組み立て、発信していく。各巻記事年表は年度内に礎稿が出来る予定なので、公表のための様式や手段を考えて、来年度に調整できるようにする。IIIの絵画資料は蓄積してきた画像データの分析を行う。また、國學院大学図書館の協力を得つつ、所蔵資料の共同調査や公開展示を行う。IIの室町文芸、IVの歴史学はそれぞれの研究成果をもとにシンポジウムなど(7月21日、11月17日)を企画しており、知見を共有するだけでなく新たな視野を導入したい。Vについては固有名詞索引と自立語索引とに分けて、作成の可能性を追求していく。今年度最大の発展的テーマは長門切に関する共同討議である。読み本系平家物語が平家物語の原型に近いという通説が成立しつつある今日、比較的はやい時代判定が出されていて、しかも源平盛衰記に近似した本文をもつ長門切に対する評価は、源平盛衰記研究のみならず中世文学史の上でも避けて通れない問題である。8月31日に、各分野で専門的研究をしている講師を招き、シンポジウムを予定している。さらに文学史的観点から、他の軍記物語の専門家との積極的交流(6月2日研究会など)も計画している。
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Research Products
(9 results)