2012 Fiscal Year Annual Research Report
文学研究の「持続可能性」―ロマン主義時代における「環境感受性」の動態と現代的意義
Project/Area Number |
22320061
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
西山 清 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (00140096)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
植月 恵一郎 日本大学, 芸術学部, 教授 (10213373)
川津 雅江 名古屋経済大学, 法学部, 教授 (30278387)
吉川 朗子 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (60316031)
小口 一郎 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (70205368)
金津 和美 同志社大学, 文学部, 准教授 (90367962)
|
Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 環境感受性 / ロマン主義 / 動物愛護 / ジェンダー / 農耕詩 / ディープ・エコロジー / 文学観光 / 環境倫理 |
Research Abstract |
平成24年度は、23年度までの成果を歴史的観点から概観するとともに、主に以下の4つの側面からロマン主義の環境感受性と、その現代的意義について考察を進めた:1) ロマン主義と環境哲学・環境倫理、2) ジェンダーの観点を含めた動物愛護についての考察、3) 文学観光における環境感受性、4) ロマン主義時代の農耕文学・農民文学における環境感受性。 【ロマン主義の環境哲学・環境倫理】生物や環境との関係における「人間」の存在論的な位置について、哲学と文学を含むロマン主義の言説の中に探るとともに、その現代的な意義を追求した。また、18世紀からロマン主義にかけての環境感受性の変遷の中で、現代につながる環境倫理が成立してくる経緯の一端を明らかにした。 【動物愛護・ジェンダー】女性と動物の関係をめぐる言説を題材に、ロマン主義時代における動物愛護の思想が、ジェンダーの問題と連動していた様相を考察・記述した。また、ここから得られた動物の社会的位置づけについて、「ペット」という観点を導入して再検討した。 【文学観光と環境感受性】19世紀中盤から、ワーズワスを中心とするロマン主義詩人とその作品を認知的媒体として自然景観と地誌を鑑賞し、そこに意味付けをしていく感性が成立した。現代にいたる文学観光の源となったこの文化的感性を、旅行記などの観光言説に探り、これをきっかけに新たな環境感受性が中産階級に広く普及していく様子を実証的に研究した。 【農耕文学・農民文学】農耕文学は、文明と自然の両方に身を置き、人間の志向性や利害に関与しながら直接的に環境を捉えた文学テクストと考えることができる。この観点からジョン・クレアを中心にロマン主義時代の「農民詩人」の作品を考察した。特に、自然と文明の接点に意識される身体的感受性と、そこから喚起される環境意識に焦点をあて、そこに現代のディープ・エコロジーの萌芽を読みとった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、自然環境と人間との関わりについて「環境感受性」というキー・コンセプトを提案し、この感性の萌芽をイギリス・ロマン主義の中に探りながら、文学研究に新たな現代的意義をもたらすことを目的としている。 過去3年間の研究においては、まず環境感受性の原型をロマン主義哲学および同時代の自然哲学の枠組みにおいて定義することを試み、ディープ・エコロジーなど、現代の環境思想の萌芽をロマン主義の思想と感性の中に位置づけることを試みた。さらにこの知見を基礎として、動物愛護、地誌と文学観光、農民文学・農耕詩など、環境感受性と環境思想に関連するさまざまな文化現象に考察の範囲を広げている。分析には、ジェンダーやマイノリティ論、環境倫理などの観点を取り入れることで、文化事象の共時的な広がりを記述しつつ、通事的意義と現代の環境保護・環境思想との接点を把握するよう努めている。こうしたアプローチにより、文学・文化事象の動態を把握することにとどまらず、文学研究自体が、現代の文化・社会状況に対して価値ある貢献をする潜在力をもつ学術・文化的営為であることを示しつつあると言える。 これまでの研究の展開は、当初の研究目的と研究計画に沿うものであり、環境感受性の系譜と動態、そしてその現代的意義をおおむね順調に明らかにしつつあると評価している。 研究発表においても、論文が30本(うち外国語によるもの6本)、口頭発表が24件(うち招待講演8件、海外での発表・講演5件)、関連する図書の刊行が7点あり、成果の発表・社会的還元の点でも順調に推移している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の2年間は、申請時の研究計画に素描した「最終段階」に基づき、地誌と文学観光、そして農耕詩・農耕文学を主要テーマとして環境感受性の問題を追求する予定である。その過程で共同体と環境、資源の有限性と文学的感性の問題を掘り下げていく。また、これらの作業と並行して、過去3年間考察を進めてきたテーマであるロマン主義哲学における環境感受性と環境倫理、動物愛護とジェンダーおよび社会的周縁性の問題を総括し、本研究の総体について最終的結論を導いていく。 これらの研究目的を実現する具体的な形として、平成25年度には以下の2つの研究集会を企画する。まず隣接領域の研究者(アメリカにおけるエコクリティシズム、および現代の環境文学と環境思想の専門家を予定)を招いた公開セミナーを開催し、外部の観点を導入しながら議論の深化を図る。さらに年度末には研究代表者、分担者、協力者が原則として全員参加し、外部講師も参加する公開シンポジウムを開催し、これまで実施してきた各研究テーマを有機的に関連させながら、全体を俯瞰する視座を得る試みを行う。これにより本基盤研究の成果と結論のアウトラインを、25年度中に明らかにしたい。 26年度には研究成果の全体的集約をさらに進め、研究書の刊行への道筋をつける予定である。当初の研究計画に則り各研究テーマの仕上げをしつつ、まず上述した25年度の研究企画をプロシーディングズとしてとりまとめ刊行する。さらにこのプロシーディングズを基に議論を深め、外部の研究者とも知見を共有しながら、環境思想と文学研究に真に貢献しうる、現代的意義をもつ研究書の企画・執筆につなげる計画である。
|
Research Products
(21 results)