2011 Fiscal Year Annual Research Report
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22320125
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
平川 新 東北大学, 東北アジア研究センター, 教授 (90142900)
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Keywords | 仙台藩と仙台領 / 地域社会史 / 仙台藩と仙台領 / 仙台藩の制度と政治 / 生業と社会 / 経済と社会 / 生活史 / 歴史資料保全 |
Research Abstract |
平成23年3月11日に発生した東日本大震災では、研究課題で直接フィールドとするかつての仙台藩領にあたる宮城県、岩手県が未曾有の被害を受けた。その地域に残されていた歴史資料も無数に被災した。それに対応すべく、被災地の行政や自治体と連携し、全国のボランティアの協力を得て、被災した歴史資料のレスキューを実施した。平成23年度は87回の被災調査を行い、44家分の歴史資料を保全する事が出来た。特に津波で海水を浴びた古文書資料が膨大に発生したことから、保存科学分野と連携した応急処置の対応を行った。また、ボランティア組織と専門家との連携のあり方など、活動全般で得られた知見を論文や学会で公表し、「次の震災」に向けた地域連携のあり方について問題提起することができた。 また今回の震災により、1611年に発生し、東北地方太平洋岸全域を襲う津波を発生させた慶長地震津波の再検討が求められることとなった。関連する文献記録から被災規模を分析した結果、理系の地震学分野での想定とは異なり、東日本大震災と同等以上の規模であるとの再評価を提示できた。また、その後の新田開発や海岸林の造成をめぐる領主層の動向を分析することで、17世紀前半の仙台藩領における土地開発が、震災復興としての固有の地域史的意義をもつことを指摘した。 震災関連以外では、仙台城下町北部に残されていた江戸時代の建築の解体をきっかけに、同地区の江戸時代における城下町の構造上の位置づけ、流通での役割、町役人の活動を新史料から具体的に解明し、城下町内外を結ぶネットワークの拠点としての性格を解明した。地域史研究では、寺院の由緒形成をめぐる記録編さんと、背景にある領内の寺院組織の編成の実態を解明した。また、疱瘡に対する社会対応を通じて、従来仙台領では分析が乏しかった医療をめぐる地域社会の公的機能や、地域住民の医療観を具体的に明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東日本大震災による被災で、年度当初の約2ヶ月間は十分な研究活動を行い得なかった。一方、被災地でレスキューした個人所蔵の歴史資料44件のほとんどは、これまで未確認・未調査の文書であり、新たな歴史像の解明に資することが出来る。また、被災を契機とした仙台領の歴史災害と復興過程の研究から新たな地域史像を提示出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題の成否を左右する地元の古文書史料が数多く被災している現状を踏まえ、東日本大震災の被災地での保全活動を継続する。そのことで、被災した歴史資料の確認とレスキューを継続し、本研究課題の達成や、地域での歴史資料保全に資するデータ収集を行う。 また、本研究のフィールドである仙台領各地の地域社会は、東日本大震災後の復旧・復興過程で予想される高台移転や人口流出などによる激変に直面している。そのような状況において、レスキューした歴史資料の分析を含めた、被災地の歴史叙述が、被災した所蔵者や地域住民から求められている。 そのような状況を踏まえ、次年度以降は仙台藩・仙台領地域社会の歴史的特質を解明するため、被災した特定の地域を対象に、近世期の文化・社会の状況を多様な側面から明らかにしていくことを研究課題の一つとして位置づける。そのことにより、仙台藩・仙台領の新たな歴史像の提示という研究課題を達成する。
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