2011 Fiscal Year Annual Research Report
ブルガリア・デャドヴォ遺跡の資料分析を通して見る青銅器時代開始期の背景
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22320163
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
禿 仁志 東海大学, 文学部, 教授 (10186009)
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Keywords | 青銅器時代 / 銅石器時代 / AMS炭素年代測定 / ブルガリア / 集落 / 環濠 / 石器石材 / 土器胎土分析 |
Research Abstract |
本研究の最終目的はブルガリアおよび周辺諸国で青銅器時代の開始にあたってしばしば言及される民族移動論」(印欧語族侵入仮説)の当否を、ブルガリア・トラキア平野中の1遺跡テル・デャドヴォの発掘資料を使って検討することである。具体的には1)集落構造の分析、特に溝(環濠)遺構の存否確認調査、2)遺跡堆積層序の再検討と居住の画期の確認、3)青銅器時代開始期に対する詳細な年代研究の実施、4)ヒトとモノの動きを土器の「胎土分析」と石器石材の採取地推定により具体的に復元すること、の4点を2011年8~9月にかけて現地調査として実施した。1)に関しては、3力年計画の中間年にあたる本年度は、前年度に実施された地中探査レーダー調査の成果に基づいて遺跡北側斜面部に2本のトレンチを設定し、溝遺構の確認を行った。その結果北側斜面部からは明確な先史時代「溝」遺構は検出されず、デャドヴォ遺跡においては集落の入り口があったと推測される緩やかな東側斜面部を除いては明確な溝遺構は巡っていない可能性を指摘できた。2)、3)に関しては中央居住区に設定されていたセクション壁20mにわたって堆積層厚3mの詳細なセクション図を作成、18点の炭化物試料を採取し、AMS年代測定を実施した。それによるとデャドヴォ遺跡では後期銅石器時代と前期青銅器時代初頭の間には約1000年の居住断絶期が存在すること、多数のカマドの継続的構築で推測される定住性の高い前期青銅器時代集落の形成は前3000前後からはじまることが示された。トラキア平野における青銅器時代開始の問題を論じる際に基本となるデータである。4)の土器胎土分析に関してはブルガリア側研究者と共同で分析を進めており、来年度に英文で共同論文を発表する準備が整ったところである。石器石材のうちフリント産地に関する基本調査も今回新しく開始された。その他、動物骨分析も継続中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究の目的」で記載したデャドヴォ遺跡における「環濠」の存否調査、居住層位の再検討と年代測定の集中的実施、土器胎土分析と遺跡周辺粘土層よりの試料採取、および動物骨の基礎的分析、に関しては過去2回の現地調査で実施済みであり、その成果はブルガリア側調査機関にも報告された。それぞれの成果は次年度にまとめられる予定であり、すでに論文、報告書、学界発表のための準備が行われている。計画は順調に進展しているものと評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
個別テーマの研究成果については、取りまとめ可能の部分から論文、報告書、あるいは学会発表として報告予定である。新たにスタートしたフリント石材研究は2012年度夏にブルガリア研究者(科学アカデミー地質学研究所所属)と共同研究が始められることとなった。研究組織・研究環境には変化なく、従前の体制で次年度も研究継続が図られる。
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