2012 Fiscal Year Annual Research Report
中国における企業合併・買収制度の成立及び運用状況に関する法史学的研究
Project/Area Number |
22330002
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松原 健太郎 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (20242068)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川村 力 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (70401015)
|
Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 法制史 / 中国法 / M&A / 会社法 / 社会構造 / 国際研究者交流 |
Research Abstract |
本研究は、中国における企業買収の法実務上生じているいくつかの根本的な問題の内、特に法制度の機能不全の局面に着目し、背景の社会経済的条件及びそれら社会経済的諸条件が生成された歴史的過程との関連において問題状況を理解・解明することを主要な課題とする。一年目には、環境整備と分析視覚の充分な特定とを目指して資料収集と研究会を重ねた。その中で暫定的に固められた研究視覚として、共産党政権下における企業活動に対する種々の中央からのコントロールの契機と、各レヴェルの地方政府及びその保護下で形成される社会編成単位での利害関心から企業活動が中央からのコントロールを脱しようとする契機との、緊張・相克関係への着目が挙げられる。 両契機が各々独自に歴史的多層性及び現代的問題を抱え、緊張・相克関係自体が一定の歴史性を有するという問題複合の中で、特に2年目以降解明すべき課題を特定して研究を進め、一部について論考を発表している。 中央からのコントロールという契機については、中国の国有企業を対象に国有資産監督管理委員会による株式の間接的保有の構造及び共産党の全体的人事政策における国有企業の位置づけ等について検討を進め、特に松原が2011~12年度にアメリカに滞在した関係から、この点について先端的研究を行う研究者と討論を重ね、松原自身問題の歴史的基層を強調する報告をコロンビア大学で行っている。地方独自の展開については松原と石本茂彦(研究協力者。森・濱田松本法律事務所)の両名が、中国でM&A実務を行う日本企業を対象として、中国における各レヴェルの政府及び裁判所との関係及びそこでの戦略につきヒヤリングを行った。 また歴史的基層として、財産保有構造と団体形成との関係が中心的な問題となり、これを扱う英語論稿を発表している。更にヴェトナムとの比較研究について、松原・石本が各々ヴェトナムに赴いて調査している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目に主たる課題とした環境整備及び分析視覚の確定とが順調に達成された結果、2年目、3年目においても、ほぼ予定通り作業が進行し、成果を発表する機会が得られている。特に本研究は当初から英語圏における先端的研究の当事者と充分な対話関係を形成維持することを目指しており、この点松原が2011~12年の一年間勤務校の公務のためイェール大学に滞在したことで、当初の計画を上回って研究が進んでいると言える。特に滞米中に、旧知のコロンビア大学教授が中国国有企業についての(2013年5月現在未発表の)最新の論稿を報告する機会に招かれてコメントを行った結果、特に中国における企業活動への中央からのコントロールについて従来になかった見通しが得られ、この側面と2010年度末から開始していた日本企業へのヒアリングに見られる地方独自の展開という側面とを合わせ、更に歴史的見通しの中に位置づけた報告をコロンビア大学で行うことができた。 また法史学的研究と位置付けられる本研究において、M&Aをめぐる法的諸問題の社会的基層を対象とする歴史研究が順調に進行している。松原が英文の論考二篇を公表した外、2010年度にリヨン東洋学院及びカリフォルニア大学バークレー校、2011年度にフランス極東学院及びテンプル大学、2012年度にはハーヴァード大学及び香港大学にて(グループ参加したバークレーを除き、いずれも招待講演)発表の機会を得ている。こうした活動の結果、2013年度には香港中文大学及びマックス・プランクヨーロッパ法史研究所(フランクフルト)での講演を依頼されている。 ヴェトナムとの比較の側面については、阮朝法制史料及び植民地法制に関わる史料を越仏両国で収集した外、二度にわたってヴェトナム漢喃研究所、香港中文大学及びハーヴァード大学の研究者達と協力してヴェトナム北部の村落社会・地元企業についての現地調査に参加している。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)これまでに得られた視角(特に中国におけるM&A実務と企業活動一般への党中央からのコントロールと地方での独自の展開との間の緊張関係に関する見通し)を活かしつつ、その社会構造的背景について法的・歴史的な分析を行った論文を公表する。論稿の全体構造は既に2012年2月に松原が行った報告において具体的に構想したものであるが、現代の国有企業の活動及びその特徴について海外の研究者との協力の中で認識を深めるとともに、従来より石本・松原行う調査を継続し、日本企業の中国進出及びそこでの地方政府・裁判所・企業体の活動の在り方の特色及び諸レヴェルの政府間関係と実務との関係を分析し、これらの点についてのデータを充実させることが目指される。論稿をまとめる段階においては、現在フランスで在外研究中の川村と、現代会社法理論における見通し手の関連における(法学的)含意を改めて整理することになる。 (2)清代中国における財産保有構造と団体形成との間の動的関係についての研究の進行 本研究の基盤をなす法史学的認識を深化させる作業であり、専ら松原が取り組む部分である。2012年度にハーヴァード大学で行った報告を基盤として、清代の財産保有構造に関する論稿を2013年度内に公表する準備をしている外、とりわけこの問題領域について海外の研究者との議論の実質化を進める予定である。後者の点につき、2013年9月にフランス極東学院との共催によって東京で国際シンポジウムを開催する予定である。 (3)ヴェトナムでの企業体形成の法史学的研究の展開 2012年度までに開始できたフランス及びヴェトナムでの調査及び専門研究者との交流とを実質化する外、現代企業法制の展開について川村・石本・松原の三名による現地調査を計画している。こうした作業をもとに、2014年度以降には中国とヴェトナムの双方を視野においた研究を何らかの形で公表することを目指す。
|
Research Products
(3 results)