Research Abstract |
本研究は,ハンセン病に対する日本政府の過てる《強制隔離政策》の犠牲者たちが,現在,高齢化とあいつぐ死亡による減少のなかにいる状況を踏まえ,いまを逃すと二度とチャンスはないという焦燥感にかられつつ,当事者とその家族,あるいはこの問題にかかわってきた支援者・専門家などからの《証言》を,ライフストーリーの聞き取りによって,できるかぎり数多く記録することをめざしている。 2011年度は,研究協力者の黒坂愛衣さんやゼミの学生たちと,青森の松丘保養園を1回,群馬の栗生楽泉園を1回,東京の多磨全生園を3回,瀬戸内の長島愛生園を1回,邑久光明園を1回,熊本の菊池恵楓園を2回,鹿児島の星塚敬愛園を3回,奄美和光園を1回,沖縄愛楽園を1回訪問,また,「平家の落人部落」として名高い宮崎県椎葉村がハンセン病者を差別しなかった村と聞き,そこも訪問し,精力的に聞き取り調査を実施した。この1年間で,あらたに「入所者」27名,「退所者」7名,「家族」2名,現職の副園長1名,元看護婦1名,弁護士1名,からの「聞き取り」を実施した。2003年にこの調査を手がけ始めてからの総計では,当事者・関係者からの聞き取りは250人に達した。 同時に,聞き取りの音声おこしと語りの編集も精力的に進め,本人による原稿確認も着実に進めている。その一部は,『生き抜いて サイパン玉砕戦とハンセン病』(創土社)として刊行したほか,大学院の紀要『日本アジア研究』に公表した。なお,『生き抜いて』の本は,『朝日新聞』西部本社版,2011.11.24朝刊に,「玉砕戦 今こそ伝える/サイパンの経験半生が本に/ハンセン病回復者の有村さん/復員後差別で生活困窮も」の見出し記事,5段組みで,大きく取り上げられた。社会的な関心の高い問題ゆえと思われる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
9.研究実績の概要で述べたとおり,「聞き取り」調査は順調に進展している。ただ,なにぶんにも,大量の聞き取り録音を,自分たち自身で「音声おこし」をしているので,そうそう,アッという間に,作業が終わるというわけにはいかない。また,膨大な「聞き取りの記録」を,これから,どう出版していくのかについて,その資金の当てがあるわけではないので,そのへんがこれからの難問である。
|
Strategy for Future Research Activity |
これからは,新たな「聞き取り」よりも,聞き溜めた録音の「音声おこし」を丁寧に作成し,それをもとに「読めるものとしての記録」の作成,そして,本人による原稿確認・公表の了承をいただくことに,作業の重点は移行する,その作業をするために各地の療養所に出向いたときに,新たに語ってくださる方が見つかれば,さらに聞き取りを箋施していく。 また,この機会に,韓国のソロクトのハンセン病療養所での聞き取り調査も実施し,視野を広げたい。 とりあえず,本年中に,家族の立場でこのハンセン病問題で苦労を重ねたひとたち12名(男女6名ずつ)の語りをもとに,『裂かれた絆-ハンセン病と家族』(仮題)を出版する。ついで,療養所を単位とした分厚い「証言集」の刊行を急ぐ。
|