2012 Fiscal Year Annual Research Report
移行支援実践におけるコミュニティ・エンパワメントモデルの開発ー若者支援を中心に
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22330208
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
宮崎 隆志 北海道大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (10190761)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石黒 広昭 立教大学, 文学部, 教授 (00232281)
向谷地 生良 北海道医療大学, 看護福祉学部, 教授 (00364266)
大高 研道 聖学院大学, 政治経済学部, 教授 (00364323)
武田 るい子 清泉女学院短期大学, 教養部国際コミュニケーション科, 准教授 (20442171)
横井 敏郎 北海道大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (40250401)
藤井 敦史 立教大学, コミュニティ福祉学部, 教授 (60292190)
藤野 友紀 札幌学院大学, 人文学部, 准教授 (60322781)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | コミュニティ・エンパワメント / 分散性 / 相同性 / 非決定空間 / 地域的ケイパビリティ / 意味の交渉 / 媒介コミュニティ / ハビトゥス |
Research Abstract |
本年度は、年度当初に研究会を開催し、コミュニティ・エンパワメント・モデルの基本構造を検討し、コミュニティが連続的に生成し得るか否かが支援実践の成否を決定することが確認された。連続的に生成するコミュニティ(=「ゆるゆるコミュニティ」)の特質を、分散性(=中心が存在しない)と相同性(=同一の機能を発揮する)の二点に絞り込み、この点を検証するために、暮らしづくりネットワーク、一麦会・麦の郷、地域生活支援ネットワークサロンの3つの実践者に協力を仰ぎ、実践記録の作成を依頼した。 その成果を踏まえた合同検討会を12月に開催し、コミュニティ・エンパワメントモデルの骨格をえた。その成果に至る中間総括は、日本社会教育学会およびAsian Conference on Educationにおいて公表し、本年度のまとめは臨床教育学会紀要に投稿した。 以上によって得られた本年度の知見は以下のとおりである。第一に、生成するコミュニティたる条件は外部コミュニティの経験が持ち込まれることにあり、そこで生じ得る対立は非決定空間の創出によって資源に転化する。第二に、非決定空間は分散性を発生させ、出来事をめぐる意味の交渉を必至とする。第三に、その分散性は相同性によって方向づけられることによって、コミュニティ全体の緩やかな統一性を保つことができる。相同性の基盤は、排除的な社会に埋め込まれた価値の反転にあった。第四に、その価値を共有するコミュニティが相互に重なりあうことによって、実践コミュニティは重層化する。それは地域社会のケイパビリティを向上させることにもつながる。第五に、このような一連の過程の総体的な変化と実践コミュニティ参加者のハビトゥスの変容は同時に進む。第六に、以上の変容過程における支援者は、場の変容の「編集者」としての機能を担う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は対象事例を3つに絞り込み、インテンシブな調査を行った。一見すると部落差別問題・障がい者福祉・就労や学習の支援という「異業種」の実践ながら、共通の実践構造を抽出することができ、コミュニティ・エンパワメント・モデルの基本構造を仮説的に導出することができたと思われる。特に、「非決定空間」が個別実践現場のミクロなレベルから地域に広がるマクロなレベルまで、連続的かつ相互規定的に展開することが、これらの実践の要に位置することを見出せたことで、エンパワメント機能を埋め込んだコミュニティの構造的特質と、固有の実践論理を整理することができたように思われる。 このような特質については、2012年度に刊行された佐伯胖他『ワークショップと学び1』および2013年刊行の藤井敦史他『闘う社会的企業』にもおいても部分的に整理されているが、本研究の知見はその両者を統一する位置にあり、人間形成空間や教育空間の在り方に対する独自の問題提起をなし得る地平を切り開いたと言えるであろう。 また、この暫定的なモデル化によって、A.センのケイパビリティ論との接合可能性が見いだされた。ケイパビリティ概念を一方では地域的な広がりにおいて把握し、他方では実践過程に連続させることによって、発達を保障する社会空間の動態的な展開論理を把握することが可能になるように思われる。ケイパビリティ概念を教育実践論に位置づけて展開することは管見の限りでは、未挑戦の課題であろう。このような理論的課題の存在を見出したことも、このモデルの理論的生産力の一端を示すものと思われる。 以上の理由により、本研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、これまでに得られた暫定モデルを検証しつつ、その精度をより高めることが課題となる。本研究が対象としている事例については、平野隆之・穂坂光彦らが『福祉社会の開発』として、地域福祉論の立場からとりまとめを行い、「場」づくり実践の意義について整理している。またコミュニティ・エンパワメントという理論的フレームに関しては、藤井淳史・大高研道らが『闘う社会企業』として理論的・実証的な整理を行っている。これらの成果に学びつつ、合同の検討会を開催し、本研究により得られたモデルの意義を検討する。 そこで得られた示唆に基づき、補足調査を実施し、報告書を作成し、学会発表を行うとともに、独自にコミュニティ・エンパワメントに関するシンポジウムを開催する予定である。 その際の主要な課題は、非決定空間や地域的ケイパビリティの質の変化に関する実証的なデータの抽出方法である。これまでの研究では主としてインタビューデータに依存していたが、仮説導出を経て検証が課題になる際には、空間の質の変動に関する客観的な指標を措定することが必要である。釧路の事例ではビデオ・リサーチも取り入れる予定であるが、参与観察も含めて実証性を高めるための工夫を試みたい。
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Research Products
(9 results)