2011 Fiscal Year Annual Research Report
西欧の素人裁判官による陪参審制度評価の調査――市民の司法参加の正統性基盤――
Project/Area Number |
22402010
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
尾崎 一郎 北海道大学, 大学院・法学研究科, 教授 (00233510)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 裕 神戸大学, 大学院・法学研究科, 教授 (40282587)
池田 公博 神戸大学, 大学院・法学研究科, 准教授 (70302643)
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Keywords | 陪審 / 裁判員 / 司法制度改革 / ベルギー / 素人裁判官 / 市民参加 / 重罪院 / 確固たる確信 |
Research Abstract |
秋と春のベルギー訪問調査のための準備として、1回ずつ国内で研究打ち合わせを行った。すなわち、8月6日に九州大学で、12月27日に立教大学で、2010年度調査をふまえて論点の集約、質問項目の整備、理論枠組みの検討などを行った。昨年度重要な論点として浮上した「確固たる確信」による評決の是非に加えて、総じて陪審制度にネガティブな専門家層と無関心だがポジティブでもある市民層の意識の差をめぐって議論が活発になされた。陪審に対する面接調査はなお制度上の壁が立ちはだかっており実現できていないが、評決直後の陪審員に簡単なアンケートを配るところまでこぎつけた。これらの準備を踏まえた現地での調査としては、10月に尾崎と池田が、3月に尾崎、池田、濱野(連携研究者)が、ブリュッセル市とアントワープ市を訪問し、Dimitri Vanoverbeke教授の協力の下、ヒアリング調査とアンケート配布、ならびに重罪院法廷の参与観察を行った。10月にはまずアントワープの重罪院の裁判長Thys氏にインタビューし、次いでトンゲレン市で開廷されていた連続殺人事件の重罪院法廷を傍聴し、最後に同法廷のJordens裁判長とSneldersメディア裁判官(メディア対応を担当するベルギー独自の制度)にインタビューしアンケート調査への協力を取り付けた。JordensとThys両氏は2012年6月までに担当する全陪審裁判の陪審員へのアンケートの配布と回収を確約し実施してくれており、現在分析を続けている。3月には、ブリュッセル重罪院の法廷とアントワープ重罪院の法廷をそれぞれ傍聴し、冒頭陳述から評決、量刑の言い渡しに至る一連の手続を確認した。また、アントワープで、ベルギーにおける司法政策問題についての第一人者のジャーナリストWit氏と、Victim Supportに従事する部署の署員にインタビューし、陪審廃止論や被害者の視点をめぐる貴重な情報提供を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
陪審のみで評議するという古典的な形式を残したベルギーの制度の構造的特徴について詳細な知見を得ることができた。これは日本における議論では見落とされてきた情報である。また、市民が制度に対して付与する正統性の意識についても、徐々にその基本的な特性が把握できつつある。オリジナルな理論化までもう一歩のところまで来ている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後もこれまで行ってきたベルギー調査を継続し、古典的陪審制度の正統性と存続理由について内在的理解を深める必要がある。同時に、当初予定していたドイツとフランスの市民参加制度についても同様の経験調査を進めたいと考えている。また、制度上極めて困難な陪審員への直接のインタビュー調査の可能性をぎりぎりまで模索することにしたい。
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