2012 Fiscal Year Annual Research Report
見えない現象を観ることに挑戦する「化学反応とエネルギー」に関する新規実験教材開発
Project/Area Number |
22500797
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
田口 哲 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (60281862)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 科学教育 / 化学教育 / 理科教育 / 教員養成 / エネルギー |
Research Abstract |
●23年度に開発したカリキュラム試案の実践と評価 23年度に開発した「巨視的視点での実験と微視的視点での実験を用いて,化学反応を微視的視点から“観る”ことを促すカリキュラム試案」を研究代表者が大学で担当している学部授業で実践した。そこで明らかになったことは,学生たちは「化学エネルギーとは何か」という本質を必ずしも正確に理解していないことであった。従って,化学結合の切断にはエネルギーを必要とし(吸熱),これとは反対に化学結合の生成の際にはエネルギーが放出される(発熱)ことの学習を,23年度に開発した鉄球とバネ(ゴム)を使用した微視的視点でのエネルギー変換の演示実験を使い実践した。その結果,誤解を生みかねない用語「結合エネルギー」とは,実は,結合“解離”エネルギーであり,化学結合が切れた状態が化学エネルギーがより高い状態であることを学生たちは理解した。 ●「化学反応とエントロピー変化」の教材開発 塩化アンモニウムの水への溶解実験(吸熱)の対比として塩化リチウムの水への溶解を調べた(発熱)。両者ともイオン結晶(塩化物イオンは共通)であるのに,なぜ前者は吸熱で後者は発熱なのかを,陽・陰イオンの解離の点だけでなく,解離したイオンの水和の点からも検討した。この水和過程のアナロジーとして,シリカゲルへの水の吸着に伴う温度変化を測定し,水和過程は発熱であることを認識させる実験を開発した。その上で,イオン結晶の陽・陰イオンの解離自体は吸熱であるが,イオン半径の違い(アンモニウムイオン>リチウムイオン)により陽イオンの水和に伴う発熱はアンモニウムイオンよりもリチウムイオンの方が大きく,塩化リチウムの水への溶解は正味として発熱することをおさた。その上で,イオン半径が小さいとなぜ発熱になるのかを,陽イオンへの水和の強さの点からエントロピーの概念を使って探求する教材とカリキュラム試案を開発した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の当初研究目的は以下の通りである。 若い世代の(特に化学を非専攻の)中学校理科教師の多くは,高校までの物理と化学の縦割り教育,高校での物理未履修,98年教育職員免許法施行規則改正に伴う教科専門科目必修40単位の半減により,「化学反応とエネルギー」の本質を,微視的な(原子・分子レベルの)エネルギー変換の観点からは深く理解せずに教えている可能性がある。そこで本研究では,直接認識できる巨視的な実験結果(例えば,吸熱・発熱現象)を基に,目には見えない微視的な現象(化学結合の切断・生成など)を観ることでこの分野の本質的理解を学習者に促す,理科教員養成(現職教員再教育を含む)のための先導的な実験教材並びにカリキュラム試案を開発することを目的とした。 本年度までに,上述の実験教材の開発とカリキュラム試案の開発は,一部を除きほぼ終えている。よって「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
23・24年度,「巨視的視点での実験と微視的視点での実験を用いて,化学反応を微視的視点から“観る”ことを促すカリキュラム案」を研究代表者が大学で担当している学部授業等で実践した。そこで明らかになった課題に従って,開発したカリキュラムを改良する。 新学習指導要領下の化学教育では,「粒子」を基本的概念の柱として,小・中・高を通じて内容の系統化が図られているが,これが有効に機能するには,教員自身が直接見えない気体を実感を持って物質として認識していることが不可欠である。この点に関して,本研究を進める中で新たに課題になった物質認識(原子・分子の存在認識)に関わる実験教材の開発(目に見えない気体にも質量があり,気体は種類に応じて異なる質量を持つ)も新たにおこなう。具体的には, ディスポーザブルシリンジ・ガラスシリンジ・ルアーストップコック等を用いて,小型ボンベ中の未知の気体を同定できる簡便な実験教材を開発し,学部授業(化学実験)で実践する。加えて,ガラスシリンジを使用した大気圧を実感できる実験教材も開発する。 さらに,24年度に開発した教材「化学反応とエントロピー変化」を研究代表者が大学で担当している学部授業等で実践し,評価する。塩化アンモニウムの水への溶解実験(吸熱)の対比として,塩化リチウムの水への溶解を調べ(発熱),両者ともイオン結晶(かつ塩化物イオンは共通)であるのに,なぜ前者は吸熱で後者は発熱なのかを,陽・陰イオンの解離の点だけでなく,解離したイオンの水和の点からの理解を促す。
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