2011 Fiscal Year Annual Research Report
海軍水路部の資料調査と「編暦業務」に関する実態解明
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22500961
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
高橋 智子 山梨大学, 大学院・医学工学総合研究部, 准教授 (70282019)
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Keywords | 科学技術史 / 日本海軍 / 水路部 / 編暦業務 / 航空天測 / 天測暦 / 航海暦 / ナビゲーション |
Research Abstract |
昨年度に整理を終えていた旧海軍水路部時代の海図や行政文書などの史資料については、日本水路協会によってデジタル化が行われ、一般公開された。日本最初の近代的な天文観測を可能にした水路部の観象台の設備や観測結果の報告資料などが含まれ、これまで日本の天文学史では触れられることがなかった水路部の天文学研究が具体的に知られ、日本で近代的な天文観測がはじまった時代の状況が把握された。 「高度方位暦」の開発経緯を含め、海上保安庁には体系的な資料が残されていなかった「編暦業務」については、防衛史料館や日本航空協会、東京天文台などで資料調査を行った。直接に「高度方位暦」の開発経緯を明らかにし得る資料は確認できなかったが、編暦業務に関わっていた海軍技師たちの報告書や、軍に対する編暦業務のための予算要求文書などから、軍との密接な関係や国際的な海軍とのつながりが見えてきた。一方で国際的な天文学連合による天体暦計算に加わることができない遅れた日本の体制などが明らかになった。 海軍水路部は、天測測量、航海暦、航空暦という、求められる精度も利用目的も異なる3部門の要請に応じた天測暦の編纂を実施していたのであり、その編纂には、天文学の専門知識を必要とするだけではなく、海上での水平線や天体の視認や高度測定法など、学問研究のための観測とは異なる天体観測条件による精度の問題も課題になった。さらに、海図作成を目的にした測量のための天測、軍艦などの航海上での位置決定のための天測、航空機が帰投する方向を定めるための天測など、その使い方に合わせた天体位置情報の作成と提供方法の開発が不可欠であった。こうしたことが国際的に協働で編纂されていた天体暦までを、敢えて独自推算することで、編暦の応用幅を広げ、結果的に大幅な作業量の削減を可能にする推算方法の開発につながったと評価できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
日本水路協会によって史資料の整理.デジタル化は当初の計画以上に進み、ほぼ目的を達成することができたが、海上保安庁に引き継がれた海軍水路部の史資料には、軍部との関係を知り得る資料はほとんど含まれていなかったこと、一方で防衛省史料館では海軍水路部の史資料は十分には整理がされていないことなどにより、資料発掘のための調査が予想以上に必要になり、実態解明はやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
海軍水路部で担っていた編歴業務は、第二次大戦の激化の中で、戦闘機の帰投用プログラムとして特殊化することを迫られた。しかしこの特殊化には膨大な計算処理が必要とされた。同様の動きが見られたアメリカでは、そのために専用の計算機・出力機械が開発されたように、日本でも計算機の開発が考えられたが、そうした方向での研究は水路部ではなく、東京帝大に新設された第2工学部と航空研究所などが関わったことが知られた。今年度は、戦時中の官・学・軍による研究開発の1つとして航空機ナビゲーションシステムの開発を位置づけ、その中での水路部の編歴業務の特徴を抽出したうえで、改めて水路部の編歴業務の歴史的特徴をまとめ、最終報告としたい。
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Research Products
(1 results)