2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520018
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
田村 均 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (40188438)
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Project Period (FY) |
2010-10-20 – 2015-03-31
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Keywords | ごっこ遊び / ケンダル・ウォルトン / games of make-believe / Kendall L. Walton / 戦争犯罪war crimes / 共同行為shared action / 犠牲sacrifice / 権力power |
Research Abstract |
平成25年度は、研究成果として2点の論文を公表した。一つは「虚構世界における感情と行為――ケンダル・ウォルトンの虚構と感情の理論――」(名古屋大学哲学論集、第11号、http://hdl.handle.net/2237/18351)、もう一つは「権力の下での行為――日本人戦犯の心理と行為の演技論的考察――」(名古屋大学文学部研究論集、第60号、http://hdl.handle.net/2237/19777)である。 前者は、人は日常生活ではウソと分かっている話には感情を動かさないのに、藝術鑑賞ではなぜ作り話に泣いたり笑ったりするのか、という古くから知られる難問を取り上げ、ケンダル・ウォルトンの説明を擁護しつつ、この説明を「共同的な力の下における」人間の行動の分析に用いることを提唱するものである。ウォルトンは、藝術鑑賞を一般にごっこ遊びとして説明する。作品に触発されたごっこ遊びの中で、人は笑ったり泣いたりする。芸術作品の美は、このように一種の「共同的な力」として、人を巻き込み、感情を通じて人を動かす。 後者は、この「美」をめぐるごっこ遊びにおける「共同的な力」への自発的な服従を、アジア太平洋戦争における日本人戦犯の心理と行為の分析に応用したものである。兵士らは、「善」であるかどうかに疑いの残る命令に自発的に服従するとき、ちょうどごっこ遊びに参加する幼児のように、自分の事実認識を保持したまま、権力によって設定された虚構の枠組みに沿って身体を動かす。この演技的な構造を想定するとき、「しかじかの行動は自分の意志で行なったものではない」という兵士らの弁明を、たんなる自己欺瞞としてではなく、聴き取ることができるようになる。 以上の研究成果を引き継いで、平成26年度は、共同行為論の枠組みで個人と社会の関係のあり方を分析する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の実績報告書の「今後の推進方策」においては、「現実世界の生身の人間が、共同的に実現された虚構世界において身体動作を行なう、という演劇的な社会性のあり方を解明することが目標となる」と記した。平成25年度に公表した論文のうち「権力の下での行為」は、日本人戦犯の心理と行為を考察の対象として、権力の下で演劇的な社会性が生み出されることを詳細に述べたものである。このように、平成24年度に企画した方向性は、平成25年度に順調に実現されたと見なすことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究目的を簡略に述べれば、(A)人間の行為一般を、フリ・まね・演技として分析し、(B)この分析にもとづいて、社会哲学の新しい原理を提起する、というものであった。 (A)については、虚構的存在者の存在論を踏まえつつ、社会的実在と人間の関わりを問題とする。その際、M.ギルバートの共同行為論を主たる導きとし、ここにケンダル・ウォルトンのごっこ遊び論を導入する試みを行ないたい。 (B)に関しては、ごっこ遊びにおける個人の唯一の身体と二重化された認識(現実と虚構の同時並行的な存立)のアナロジーとして、人間の社会性を分析する道を拓きたい。
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Research Products
(2 results)