2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520085
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Research Institution | Shitennoji University |
Principal Investigator |
矢羽野 隆男 四天王寺大学, 人文社会学部, 教授 (80248046)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 懐徳堂 / 並河寒泉 / 泊園書院 / 藤澤東畡 / 藤澤南岳 / 大坂漢学 / 変革期 |
Research Abstract |
まず、並河寒泉が安政年間に幕府の依頼を受けて行った河内の陵墓調査について、その経緯と実態とを明らかにした論文を「並河寒泉の陵墓調査―幕末懐徳堂教授の活動―」として公表した。なお、この論文に盛り込めなかった寒泉の陵墓調査の特色にあたる部分については26年度中に公表を予定している。 次に、関係資料の調査の過程において発見した天理図書館蔵の新資料『並河潤菊家傳遺物目録』について、その歴史的な価値の考察を付して池田光子氏との共同で「『並河潤菊家傳遺物目録』翻刻および解説」として公表した(池田氏は懐徳堂記念会研究員)。これは、幕末明治の変革期に経営が困難となり閉校に至った懐徳堂において、遺書・遺物が散逸の危機にさらされる中、並河寒泉はその保存収集に努め、寒泉の死後、その遺書遺物は娘閏菊に受け継がれた。本目録はその伝授の状況を具体的に示すもので、並河碩果死去直後(1840年ごろ)から昭和初年までの記録の空白期を埋める貴重な資料であることを指摘し、内容を翻刻の形で紹介した。 また幕末明治の大坂で繁栄した、徂徠学の系譜につらなる泊園書院について、藤沢東ガイ(田+亥)・南岳父子が形成した泊園学を反映する『大学家説』を考察し、懐徳堂の奉じた朱子学、および徂徠学との異同を明らかにした。その成果は研究協力者として関わっている「懐徳堂の総合的研究」(科研費基盤研究B、研究代表者:竹田健二氏)の例会「懐徳堂研究会」(平成26年3月26日)において口頭発表を行った。この研究成果については、26年度中に論文の形で公表の予定である。 最後に、『寒泉遺稿』については、題目を抽出して資料活用に供すべく整理した。しかし、その中から特色ある資料の抽出・解読には進めなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
まず最も大きな遅れの原因は、膨大な『居諸録』の解読および情報抽出の作業が容易でないことによる。予定では、I学生情報、II講学情報、III学術交流情報、IVその他(政治社会の主な出来事への所感・論評)に分類して抽出整理する計画であったが、III以外は、背景の理解や情報が多岐にわたり困難があった。 次に歴史的な意義のある新資料『並河潤菊家傳遺物目録』に着目し、その考察および翻刻に、時間を費やしたという事情による。当該目録は、変革期の懐徳堂の遺書遺物がどのように伝授されて今に至るかという資料の空白期を埋めるものである。大阪大学附属図書館懐徳堂に所蔵の現存資料との対照作業にやや時間を要した。 また当初の予定にはなかった泊園書院の『大学』解釈に考察を及ぼした。変革期の大坂における代表的な漢学拠点である泊園書院と懐徳堂との関係に考察を進めていたところ、泊園の『大学』説が朱子学派とも徂徠学派とも違う特色をもち、それが近代国民国家を指向する思想内容をもつことがわかった。この点は、変革期の大坂漢学の展開を追う上で重要と考えて、その考察・まとめを行った。これに時間を費やしたことが遅れの理由の一つとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は本研究課題の最終年度であるので、まず『居諸録』のIIIの情報を抽出し整理して公表することを第一の目標とする。 ついで『寒泉遺稿』の整理作業を踏まえ、特色ある資料の抽出を第二の目標とする。 以上の二点を最優先の課題とし、年度内に作業を終えて報告書に結果を公表できるように努める。 それとは別に、大坂漢学の近代への展開を示すものとして、泊園書院の『大学家説』および『中庸家説』があることがわかった。朱子学とも徂徠学ともことなる特徴をもつ泊園学の近代国民国家への指向性を指摘する思想史的意義は少なくない考える。可能であれば26年度中に『大学家説』に次いで、『中庸家説』の思想的特徴をまとめ、年度末の報告書に盛り込みたいと考えている。
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