2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520190
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Research Institution | Shukutoku University |
Principal Investigator |
白井 伊津子 淑徳大学, 総合福祉学部, 准教授 (40323224)
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Keywords | 萬葉集 / 修辞 / 譬偸 / 和漢比較 |
Research Abstract |
中国古典文学における譬喩表現と日本古典文学の譬喩表現を比較検討し、中国文学の受容のあり方、および日本古典文学における譬喩表現の独自性を明らかにすべく、平成22年度は、「譬喩表現比較の基礎資料」の作成に着手した。まずは、「萬葉集」歌について、譬喩を構成する所喩と能喩の関係を、形式的特徴、譬喩の素材的特徴の観点から分析を加え、一首ごとにデータの蓄積をはかった。 この分析の過程において、「萬葉集」歌の直喩表現の通時的な展開に着目すべき点が認められたのはとりわけ意義深いことであった。以下にその成果の概要を記す。 直喩表現をなす歌を直喩の形式において捉えた結果、萬葉前期と萬葉後期とでは、そのありように違いが見いだされる。すなわち、前期では、所喩句と能喩句との類似性は、モノと属性との関係において、その一々が対照されてあった。だが、後期の歌になると、述語の繰り返しを持つ点で、形式的には同じであっても、譬喩の対応のあり方が、語の段階から句へと変化を来している。その変化は、観念的な意味を具象的な事柄の叙述を通して説く仏典や、句が自律性を保って何らかの意味を喚起するにいたる諺を能喩に取り込む歌に顕著であった。つまり、これは、モノとその属性の抽出という分節的なありようが、主語と述語による叙述性へと置き換わっていくという実際を示している。 こうした展開は、隠喩を中心に据えた序歌形式の整いに加え、大伴家持によって寓喩を基本とする「譬喩歌」の部立が設けられるなど、萬葉後期における譬喩に対する強い意識と連動する。ゆえに、直喩を一首の形式とする短歌が後期に至って成立するのもそうした意識のひとつの具現化だと捉えてよい。
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Research Products
(1 results)