2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520212
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Research Institution | Osaka Ohtani University |
Principal Investigator |
横田 隆志 大阪大谷大学, 文学部, 准教授 (90403211)
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Keywords | 中世文学 / 観音 / 南部 |
Research Abstract |
本年度は、東京大学史料編纂所・神奈川県立金沢文庫・国立国会図書館における調査を重点的に行った。特に笠次文庫では、中世南都観音伝承と特に関連をもつと思われる縁起類や神道書を調査し、本研究計画を推進する上で基礎的かつ重要な知見を得ることができた。 また本年度は天理大学附属天理図書館での調査研究をもとに、同図書館蔵『泊瀬深秘之事』の翻刻(全文)を公にし、本資料のもつ意義につき考察を加えた。 『泊瀬深秘之事』は従来、中世南都の観音信仰を考える上でしばしば参照されてきた。かつて『泊瀬深秘之事』の本文の一部を紹介したのは永島福太郎氏である。同氏著『奈良文化の伝流』(目黒書店、昭和26年、初出昭和19年)142頁及び『豊山前史』(総本山長谷寺、昭和38年)10頁で引用された「日ハ泊瀬ヨリ出ル也」以下の本文がその一例であり、長谷寺開基の徳道が伊勢に参詣したこと、その地で伊勢の神宮寺として長谷寺を創建すべしとの託宣を得たこと、天照大神と長谷観音は同体であること、伊勢は「日」でありかつ観音でもあること等が記されている。 しかし永島氏の著書においては『泊瀬深秘之事』そのものの説明はほとんどなく、唐突に本文が引用されている。実のところ本書は、長谷寺周辺の名所等の項目を列挙し、その上で名所の所在地や関連する伝承・和歌などを記した書である。例えば「日ハ泊瀬ヨリ出ル也」以下の本文は、泊瀬山の別称である「豊山」の解説から「扶桑」という言葉が導かれ、その「扶桑」とはなにかを説く文章の一節である。 上述の論考では、本資料にかんするこうした基礎的な書誌的事項及び概要を示し、その全文を紹介した。このことを通じ、中世南都の観音信仰を考える上でひとつの基礎となる知見を学界に提供できたものと考える。こうした基礎的な調査研究を今後も続けていく予定である。
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