2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520271
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
新田 啓子 立教大学, 文学部, 教授 (40323737)
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Keywords | アメリカ合衆国 / 恥辱 / Henry James / Langston Hughes / W.E.B.DuBois / Toni Morrison / Richard Wright / 東日本大震災 |
Research Abstract |
南北戦争期より1940年代までのアメリカ小説を中心に、そこに表れた「恥」の表象を読み解くことを目指した本研究の2年目にして中間年度にあたる平成23年度は、(1)黒人文学に表れる恥辱表象の傾向と個別例を歴史的にまとめるという作業および、(2)より広いアメリカ近現代文学・文化における「人種的恥辱」の概念化を進めた。それと同時に、Henry Jamesに著作における恥観念についての論文執筆を開始した。同論文は、英国Ashgate社刊の書籍Seeing America:Nineteenth-Century British Travellers in the New Worldに収録される"Closing of an American Vision:Alien National Narrative in Henly James's The American Sceneであり、その出版は平成23年12月以降となる予定である。 黒人文学に現れた恥の概念については、W.E.B。DuBois,Langston Hughes, Jean Toomer, Richard Wright, Toni Morrisonなどについて、その重要性を確認した。作家自身が格闘した、あるいは追体験した恥の感覚は、一面で、「貧困」や黒人作家としての「承認」問題に顕著に係わっていることが検証されたが、それらはおおむね、20世紀に進展した米国リベラル社会への批判となって、作品に結晶している。また身体的反応を及ぼす「情動」としての側面を有する恥は、作品上では、苛烈かつ特異な身体表象に託される傾向があるということも判明した。そしてそのことの一端を、24年4月刊行の著書『アメリカ文学のカルトグラフィ批評による認知地図の試み』(研究社)において執筆した。 以上のほか、本年度には、当初予想していなかった主題について、「恥」という観点から考察を進めることになった。23年3月11日に起きた東日本大震災を端緒とする応答の一貫として、極限状況における生と死の問題、被災しなかった者たちの責任の問題を思考するに至り、そこでも「恥」という経験が本質的な問題として生じてくることを実感した。この件につき、1本の雑誌論文、1件の招待シンポジウムを形にしたが、今後ともさらに、日本の現代思想における不可避の問題として追究を続ける所存である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画した資料調査ならびに解析が順調に進み、今年度中に執筆した研究成果も、平成24年度には刊行される運びであることが明らかであるため。また、当初計画した調査の順番も、適切であることが検証できているため。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通りアメリカ文学および文化の研究を進めつつ、「恥」という問題が日本の現代文化においても大きな問題であることを、次年度以降も考究し続けていきたい。それに対する執筆・論評を積極的に行いながら、私がこれまで進めてきた外国文学・文化に関する研究をもって、我々がいま生きる文化や社会に直接的な貢献ができるように務めたい。
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