2011 Fiscal Year Annual Research Report
ウェールズ国文学の誕生から見る国民国家形成期における口承の位置づけと民衆観の変遷
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22520304
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
森野 聡子 静岡大学, 情報学部, 教授 (90213040)
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Keywords | マビノーギオン / ブルー・ブックス / 民衆 / 国民文学 / バルド / 中世ロマンス |
Research Abstract |
本研究は,国民国家形成時にブリテンの少数言語地域,いわゆるケルト周縁地域でナショナリズムと連動する形で起こった「国文学観」の誕生と制度化を研究対象とする.平成23年度は,中世ウェールズ説話『マビノーギオン』の受容史について,8月にアイルランドで行われた国際ケルト学会で発表した.続いて,研究実施計画に従い,中世バルドの宮廷詩から散文説話へというウェールズ国文学観の変遷の第一段階から第二段階,即ち,散文説話の正典化によって,国文学のパラダイムが,職業的詩人・写本文化から民衆文学・口承伝統へと変化していった段階について取り上げ,ウェールズ国立図書館で史料収集を行った.特に,1847年に発表された,連合王国政府によるウェールズ民衆の教育視察レポート,通称『ブルー・ブックス』を国文学観変化の第2のターニングポイントと想定し,『ブルー・ブックス』に対し,当時のウェールズ知識層がどのような文化的ナショナリズム言説を構築していったかについて検証,その成果の一部を10月に行われた日本ケルト学会で発表した.さらに,この口頭発表を発展させた論文をジャーナルに投稿(査読審査中),その中で従来の『ブルー・ブックス』研究とは異なる観点から論考し,ウェールズのアカデミズムにおける『ブルー・ブックス』批判や「民衆観」自体がウェールズに特有のナショナリズム的言説であることを指摘できたのも一つの成果であると考える.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ウェールズ国文学の制度化について,18世紀の国文学という概念誕生期から19世紀半ばまでは,当時の史料を読み解き概略を描くことに成功した点,当初の研究計画におおもね沿って進行している.一方,国文学観形成に携わった知識層の言説の分析だけでなく,そのような言説を成立させ,流通させていた「言説空間」や「メディア」の実相については,まだ発表に足るような成果を挙げていない.これらは,文献史料の分析だけでは明らかにすることが困難であるため,調査方法を含め,今年度から最終年度にかけて取り組んでいくべき課題であると認識している.
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Strategy for Future Research Activity |
11に記述したように,18世紀~19世紀という,マス・メディア誕生以前の時代を含む研究対象期間において,言説空間・公共空間・メディアについて実証的に調査するのは困難さを伴う.しかしながら,当時のウェールズにおける雑誌や新聞の流通状況や,国文学観形成に関わった人々の交流関係,関係する団体・組織・大学などの活動について史料を集めることで,ある程度の像を描くことは可能であると考え,研究を進めていきたい.
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Research Products
(3 results)