2011 Fiscal Year Annual Research Report
絶対王政期におけるイタリアの文化的環境の変容および「ガリレオ事件」の位置づけ
Project/Area Number |
22520338
|
Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
小林 満 京都産業大学, 外国語学部, 教授 (50242996)
|
Keywords | イタリア文学 |
Research Abstract |
もともとはイエズス会士であったジョヴァンニ・ボテーロは、その著作『国家理性について』で政治的権威と宗教的権威が調和する姿を描くことで、スペインによるイタリア支配の理論化を進めた。それに対して、トライアーノ・ボッカリーニの『パルナッソス詳報』は、アポロンが支配する王国パルナッソス山で起きる出来事や、有名な文人や政治家たちからなる住民たちがヨーロッパ(とりわけローマ)の政治的現状に対して行なう議論などを地上に報告するといった形式をとった作品である。ヴェネツィア的な共和政を理想とし、スペイン王国と教会の同盟に反対する立場をとったボッカリーニが、内容としては欺隔に満ちたイタリアの政治を椰楡しているのであるが、想像界での出来事という隠喩の形を用いている。このパルナッソス山で行なわれた裁判では、マキャヴェッリは、君主の冷酷な政治手法を民衆に教えることで、「羊」に「狼」になる方法を教えたとして裁かれる。換言すれば『君主論』を共和政に引き寄せて解釈する道を拓いたとも言えるのである。 さらに、絶対王政期のボローニャでは、ジュリオ・チェーザレ・クローチェの活躍が民衆世界の発見という視点からも重要である。『ベルトルドの非常に鋭い抜け目なさ』と『ベルトルディーノの愉快でおかしな馬鹿さ加減』は彼の作品として有名であるが、アドリアーノ・バンキエーリが3人目のキャラクターとしてカカセンノを加えることで、喜劇トリオが完成したことは注目に値する。クローチェとバンキエーリ双方の「方言」の再評価を含め、彼らの出版活動を中心にして、この時代のボローニャの文化的環境をさらに研究する必要性が確認された。 ガリレオに関しては、「無限」に関する資料を多く収集できた。「無限を認識すること」についてガリレオがどう考えていたかを理解することが、自然学や数学と神学のはざまでの彼の真理の探究について考察する手掛かりになると思われる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「トスカーナ大公母宛の書簡」を中心とした、いわゆる「科学と宗教の関係」をめぐる書簡や著述の翻訳作業が遅れているものの、「無限を認識すること」の重要性を確認し、そちらの資料を多く収集することができたので、おおむね順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は今年度積み残した「科学と宗教の関係」をめぐる書簡や著述の翻訳作業と「無限」に関するガリレオの姿勢をさらに明らかにすることを継続しつつ、予定通り、フランチェスコ・バトリッツィとトンマーゾ・カンパネッラおよびジョルダーノ・ブルーノについて政治思想の観点からの分析に着手する。また、ジュリオ・チェーザレ・クローチェをはじめとするボローニャの文化的環境についても継続的に調べていくこととする。
|