2012 Fiscal Year Annual Research Report
絶対王政期におけるイタリアの文化的環境の変容および「ガリレオ事件」の位置づけ
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22520338
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
小林 満 京都産業大学, 外国語学部, 教授 (50242996)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | イタリア文学 |
Research Abstract |
ジョヴァンニ・ボテーロが『国家理性について』で政治的権威と宗教的権威が調和する姿を描くことで、スペインによるイタリア支配の理論化を進めたことに代表されるように、絶対王政の理論的正当化が図られていった16世紀から17世紀には、理想的な国家像(ユートピア)を描く思想家たちも現れた。16世紀半ばに哲学者フランチェスコ・パトリッツィ・ダ・ケルソは自らの理想とする都市像を『幸福な都市』のなかで展開し、16世紀後半にはルドヴィーコ・アゴスティーニも『空想国家(共和国)』を著わしている。パトリッツィは『詩学について』のなかで模倣の原理を否定し、芸術は個人の想像力によるべきだと主張した。 17世紀のユートピア論の代表作『太陽の都市』を執筆した時期のカンパネッラは、スペイン支配から南イタリアを解放してキリスト教都市国家を作ることを目指していた。しかし、蜂起失敗後は、スペイン王国、教皇、またフランス王国による世界統治へと立場を転換した。カンパネッラの思想は簡単に要約できない内部矛盾も含む複雑なものであったが、「3つの巨悪、すなわち専制政治、詭弁、偽善を根絶するために私は生まれた」という詩句にあるような、知識人の態度では一貫していた。 この知識人の態度は、哲学者ジョルダーノ・ブルーノにも共通して見られ、たとえば『驕れる野獣の追放』のなかでは、今では悪徳の象徴となっている古代以来の星座群を新たな美徳の星座群へと改革するという寓話的な語り方で、社会改革が語られている。また、ブルーノは『英雄的狂気について』のなかでアリストテレスの詩学の規則に縛られている現状を否定し、詩作における個人的な情熱を重視しており、パトリッツィとも同じベクトルを有していたと言える。 伝統的な世界認識の在り方を覆したブルーノ、カンパネッラ、そしてガリレオが対抗宗教改革を経た教会と衝突することは必然的な結果であったと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「トスカーナ大公母宛の書簡」をはじめとする、いわゆる「科学と宗教の関係」をめぐる書簡や記述の翻訳作業が遅れているが、政治思想を中心とした16世紀から17世紀の知識人の態度についての分析はほぼ完了しているので、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまでに積み残している「科学と宗教の関係」をめぐる書簡や著述の翻訳作業を進め、この問題に対するガリレオの態度の構造を「無限論」をもからめて分析しつつ、予定通り、「ガリレオ事件」が当時のイタリアの自然学研究者たち(トッリチェッリ、カステッリ、レーディ等)に与えた影響の分析に着手する。 余裕があれば、今年度分析を行なったパトリッツィ、ブルーノ、カンパネッラの政治思想の背景にある彼らの自然認識・宇宙認識をも考察してみたい。
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Research Products
(1 results)