2011 Fiscal Year Annual Research Report
第一次世界大戦期に於ける国際間書籍の譲与及び鹵獲についての研究
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22520372
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
山口 謠司 大東文化大学, 文学部, 准教授 (00286915)
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Keywords | 『尚書』 / 第一次世界大戦 / 敦煌本 / ブリティッシュライブラリー / パリ国会図書館 / 書籍譲与 / 文献学 / 東西学術交流 |
Research Abstract |
本年度、筆者は、「写本から刊本へ--唐代通行『尚書』の研究」と題して博士学位請求論文を提出し、博士号を取得した。本研究は、第一次世界大戦前後を挟んで、中国で発掘された唐代の写本(敦煌本)とまた我が国に平安時代以来伝わる写本の『尚書』を、宋代刊本と比較して、唐代通行の『尚書』が、いかに現在我々が読む『尚書』と異なっているかを文献学的に証明したものである。これは、あるいは経書受容の歴史を明らかにするものであるが、敦煌本は発掘されるとまもなく第一次世界大戦前にフランス、イギリス、ロシアなどに移送され、現在プリティッシュライブラリー、パリ国立国会図書館、レニングラード図書館などに保管されている。これらのものは、一部、写真によって中国や日本の研究者の研究に供されたが、じつは現物を精査することなしには、不鮮明な箇所も少なくなく、またその膨大な量の写本の全体像を捉えることなしには、ほんの一部の写本だけでは明らかにし得ない文献学上の性格もある。 筆者は、すでに二十年ほど前から現地に留学して敦煌本の研究を行ってきた。博士論文では、その点を十分に生かして『尚書』の敦煌本の性質を明らかにしたことと考えている。さて、こうした個別資料の文献学的研究と合わせ、書籍譲与及び鹵獲という本研究のテーマからすれば、博士論文は、列強による中国書籍の鹵獲に関する問題を提起する。ただ、当時、第一次世界大戦前には、まだ、敦煌本を偽造と見なす研究者も多く、我が国に伝わる旧鈔本との比較がなくてはそれを本物と証明することはできなかった。我が国の文献があって初めて、敦煌本の真価が明らかになったのである。このようなことを考えれば、第一次世界大戦を契機として始まった東西の学術交流が、文献の価値判断をより客観的にしたということが言えるであろう。博士論文を提出することによって、更に研究の方法が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、個別的な文献の研究を行う予定はなかったが、それをおこなうことによって、概観的な視点からでなく、より個別的な問題としても文献の譲与及び鹵獲の問題を考えることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の推進に変更及び問題点はない。 本年度、筆者は、博士論文で提出した「写本」から「刊本」へのテキストの変化と合わせて、第一次世界大戦前後に行われるようになる活版印刷及びそれにともなう読書人層の広がりなどをテーマに、文献がグローバル化する際の問題点などを研究する予定である。なお、これとともに、一九〇〇年代になって東アジアで盛んに作られていくことになる図書館というものがどのような機能を果たしていたかについても研究を進めたいと考えている。
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Research Products
(5 results)