Research Abstract |
大学英語教育に課された使命のひとつである,英語作文能力育成のための指導をより効率的に行うために,本研究では,従来の英作文指導の方法では効果を上げることが難しい,習熟度の低い学習者の場合に的を絞り,克服されるべき問題点を整理し,優先順位を明らかにすることを目的としている. 今年度は,初年度の研究成果として収集した学習者の中間言語資料についての手作業による分析をさらに進行させた.初年度の研究の中で,克服されるべき問題点として浮上していた次の3点について,どのような状況でどのようなエラーとして現れる傾向があるのかを明らかにした. (1)日本語に見られる話題化の「は」と統語的主語との混同 (2)既知情報省略の誤用 (3)述語の項構造の流用による混乱 (1)については,英語の動詞beの過剰使用に結びついていること,(2)については,接続詞を伴う重文・複文において後置された節に脱落現象が多く見られること,(3)については,心的状態を表す動詞などに特にエラーが多いこと,などである. 本研究のもうひとつの柱となる課題は,学習者の生成物(作文)を資料として蓄積していくための仕組みづくりである.今年度は,連携研究者である小島篤博氏の専門的知識と技術の提供により,授業支援システム(Moodle)上で行う学習活動のバックアップデータから中間言語資料を効率的に抽出するプログラムを完成させた. また,資料を得るための学習活動が,学習者間の人間関係の形成にも貢献し,学習の動機づけになるという予測外の効果があることが示唆された. 以上の研究成果を国内外の学会で発表し,論文にまとめ,公刊した.
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Strategy for Future Research Activity |
データの収集と分析をこれまで順調に行ってきた.次年度より研究分担者として上述の小島氏を迎え,データ抽出ツールの完成と公開を目指す.学習者の中間言語に見られる統語的借用の分析の面では,これまでに得た観察結果を,言語類型論/対照言語学の知見を援用することにより,より一般的な言語学的議論に発展させる可能性をも探る.同時に,日々の授業実践を通して,効果的な指導の方策を探るべく,授業支援システム(Moodle)やブログなどを用いた学習者へのフィードバック方法を試行していく.指導効果をどう測定/評価するのかについても検討を始める.国内外での学会で成果を発表する.
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