2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520702
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Research Institution | Nagano National College of Technology |
Principal Investigator |
中澤 克昭 長野工業高等専門学校, 一般科, 准教授 (70332020)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 日本史 / 中世史 / 鷹狩 / 狩猟 / 鷹書 / 家業 / 持明院家 |
Research Abstract |
本年度は、16世紀に鷹書を書写・著述した持明院基春・基規父子について調査・研究を続けた。 基春は持明院流入木道の祖とされる人物だが、彼は鷹書の書写・著述にも積極的で、文亀3年(1503)に『鷹経辨疑論』、永正3年(1506)には『責鷹似鳩拙抄』という鷹書を著しており、同13年には『鷹秘抄』を書写した。尊経閣文庫所蔵の『西園寺家鷹口傅』は最奧に「従三位基春」とあり、基春が所持していたと考えられ、同『西園寺家鷹之書』にも「従三位 藤(花押)」とあって、基春書写(または所持)本の写本とみられる。 『鷹秘抄』の最奥には、「この鷹譜は〈土岐〉禅蔵寺殿より西郷殿参るを大巣殿御相伝、それより写おわんぬ」とある。「禅蔵寺殿」は美濃の土岐頼忠で、『土岐系図』によれば、頼忠の子頼音が西郷(岐阜市)に居住して「西郷」を称し、頼忠の子頼兼が本巣郡大須(根尾村)に居住して「大須三郎」を称したというから、『鷹秘抄』は土岐氏相伝の鷹書だったとみてよいだろう。『実隆公記』などの記録によれば、基春は何度も美濃国へ下向しており、基春と土岐氏との関係は密接であった。 所謂『基盛朝臣鷹狩記』康応系諸本の奧書には「基規」の名がみえ、なかでも尊経閣文庫所蔵『鷹狩之事』は基規書写(または所持)本にかなり近い写本とみられる。また、同文庫所蔵の『西園寺家鷹之書』は元禄3年の写しだが、その本奥書には「防州正□□於旅館書之/天文第十四暦十二月下旬 左金吾藤(花押)」とあり、親本は基規が周防滞在中の天文14年(1545)に書写した本であったことがわかる。『言継卿記』などによれば、基規は晩年、大内義隆と親密に交流し、周防山口にしばしば下向・滞在していた。 西園寺家の鷹書を含むいくつもの鷹書の収集・書写をしていた基春・基規だが、彼らは都だけでなく地方の大名との交流のなかでも、鷹書を収集・書写していたことがあきらかになってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
この研究のひとつめの柱であった『基盛朝臣鷹狩記』について、それが従来信じられてきた持明院基盛の著作ではなく、少なくともその前三分の二は西園寺実兼の著作であったとみられることをあきらかにした。これは大きな成果である。また、ふたつめの柱である、持明院基春・基規父子の事跡に関する調査・研究も進んでおり、基春と美濃・土岐氏、基規と周防・大内氏との関係についてあきらかになりつつある。 しかし、校務が予想以上に繁忙になり、文書や故実書類の写本調査の実施回数は予定よりも少なくなっている。いまだに持明院子爵家所蔵文書の調査は実施できずにいることから、中世・近世移行期の持明院家についての考察はほとんど進んでいない。また、諏訪氏と公家たちとの交流などについても今後の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
持明院基春・基規父子の事跡をさらに解明したい。基春と美濃国および土岐一族との関係については、『実隆公記』や『御湯殿上日記』などにみられる関連記事を再検討する。また、基春書写の『鷹秘抄』については、静嘉堂文庫、宮内庁書陵部、陽明文庫などに所蔵されている古写本を確認したい。基規と大内義隆との関係についても、古記録と故実書類の知見を総合して考察を深めたい。 持明院家は中世・近世移行期をいかに乗り越え、鷹道を相承したのかについても探る。『言経卿記』『御湯殿上日記』など、この時期の古記録のなかから、持明院家の人々に関する記述を抽出し、考察する。また、持明院子爵家所蔵文書には、入木道・鷹・郢曲に関する文書が含まれていることが知られているから、ぜひ調査したい。それらから得られた情報と、近世の故実書類や家譜などの記述とを対照し、実像に迫る。 余力があれば、諏訪氏と公家たちとの交流、西園寺家や二条家と鷹道との関係についても調査したい。
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