2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520726
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Research Institution | The Toyo Bunko |
Principal Investigator |
永田 雄三 財団法人 東洋文庫, 研究部, 研究員 (20014508)
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Keywords | トルコ / アーヤーン / カラオスマンオウル / 中東問題 / 中央集権化 / 英土通商条約 / 資産台帳 / チフトリキ |
Research Abstract |
本研究は、近代トルコの地方名士研究の一環である。地方名士研究は、現代における中東問題理解のための歴史的パースペクティブを獲得するためにきわめて有効な研究である。このため、現地において、また欧米諸国において、地方名士(アーヤーン)研究は現在もっとも注目されている研究分野である。研究代表者は、すでに前近代におけるトルコの地方名士研究をトルコ文、英文、そして和文で公表し、一定の評価を得ている。本研究は、その成果をふまえて、近代、すなわち19世紀中葉におけるトルコのマニサ地方の名家、カラオスマンオウル家の動向を明らかにすることを目的としている。昨年度(第2年度)は、トルコの「総理府オスマン文書局」に所蔵されている1845年付マニサ地方「資産台帳」全66冊を収集し、1年をかけてこれを読破した。この作業によって、約3万人に達するマニサ地方の都市民・農民・遊牧民の資産状況を分析し、かつその中にカラオスマンオウル家を位置づけることに努めた。結論をいえば、この時期に始まった中央政府による近代化改革、すなわち中央集権化政策と1838年の「英土通商条約」の締結による国際貿易の拡大とを契機とした地方社会の変容過程のなかで、カラオスマンオウル家は、その富と権力の源泉の一つであった徴税請負権こそ失ったものの、経済的基盤であったチフトリキ(大農場)経営を通じて地域の農業生産とその市場化過程を掌握しつづけることによって、地方名士としての地位を持続させていた。しかし、同時に社会変動に伴う新たなライバルの出現は、この一族の地域社会における独占的な地位を相対化させる方向に世の中を動かしつつあった。本研究の成果は、東洋文庫の英文紀要『Memoirs of the Research Department of the Toyo Bunko』No.70号に「19世紀中葉トルコの地方名士-カラオスマンオウル家を事例として-」と題して英文にて出版の予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究のための第一次史料は、イスタンブルにおける「総理府オスマン文書局」に所蔵されているオスマンートルコ語文書である。近年のコンピュータ技術の発展によって、これら古文書の検索および収集作業が格段にやりやすくなり、本研究推進のために必要な史料が予想以上に収集できたことがその理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、現代世界における国際紛争の中心の一角を占める「中東問題」の歴史的理解を深めることを目的としている。そのために欠くことのできない近代中東諸国の地方名士たちの在地社会におけるプレゼンス、紛争の解決における役割などを明らかにし、かつかれらの現代における影響力の残存形態を確認することによって、中東における政治文化の特徴を明らかにすることに努めている。近年のコンピュータ技術の進歩のおかげで、当初予定していたよりも格段に早く史料を収集し、これを分析することができている。そのため、来年度(最終年度)は第一次世界大戦後の連合軍およびイギリスの支援を受けたギリシア軍の占領下に置かれたマニサ地方において組織された「併合拒否」運動におけるカラオスマンオウル家の役割を明らかにしたい。本研究の開始当時は研究がここまで進展するとは予想できなかった。そこで、来年度はアンカラの「トルコ歴史学協会」の文書部に所蔵されている文書の収集を計画している。研究代表者は現在同協会の「日本連絡会員」に任命されており、これらの文書を利用するためには大変有利な立場にある。 本研究の最終的成果は、トルコ語で、できれば同協会の紀要『Belleten』誌上において発表することを考えているが、研究代表者は、すでに同協会から2度に渡って研究成果を公表しており、この点からもそれは十分に可能である。
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Research Products
(5 results)