2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520735
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長谷川 まゆ帆 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 准教授 (60192697)
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Keywords | フランス近世 / 出産 / 多数決 / アルザス / アンシャン・レジーム / 社団 / 身体 / 村共同体 |
Research Abstract |
交付2年めにあたる平成23年度は、公務の関係で夏休みに調査に出ることが困難であったために、当初予定していたよりも短い滞在に終わったが、9月19日~9月28日に10日ほどアルザスでの文献調査を行うことができた。これは昨年から残されていた調査の一部である。限られた時間を有効に使うため、滞在中は専らアルザスのバ・ラン県文書館(コルマール)に通い、これまで入手していなかった文書をディジタルファイルに収めた。また可能な限り内容を読んで把握しながら作業を進めた。この文書は本研究の主軸となるサンタマラン渓谷を含む領主領での紛争の裁判記録であり、本研究がクローズアップする事件の起きた1770年代に先立つ半世紀の動き-とりわけ領主-農民関係-をとらえることを可能にしてくれる貴重な文献である。この渓谷は当時ミュールバッハの修道院領に包摂されていたが、近世において領主の土地への管理が強化されるにつれ、領主-農民間の争いが顕在化していく。とりわけ領主の徴税制度との関係で存在する領主よりの村役人と農民集団の間に長らく潜在していた対立がいかなるものであったかを教えてくれる。 一方、今年度は、フランスにおける村落形成の起源にかかわる古典的な研究(たとえば19世紀末の歴史家A.Babeauや1970年代以降に活躍したJ.P.Guttonらの著作)から、村落共同体の形成・発展と領主-農民関係との密接な関わりを示唆するシェーマに触れることができ、これらの既存の認識を用いて、対象地域の問題をあらためて照らしだす上で重要な手がかりを得ることができた。助産婦・産婆をめぐる紛争を18世紀のフランス王国とアルザスの関係の中に位置づけ、その意味を時代とその変化の関わりの中でとらえていく枠組みがいまようやく姿を現しつつあると言える。またさらに考えるべき重要なテーマとして浮上してきているのは、王権による統治技法としての「古代ローマ」の摂取とその実態の問題である。 これら複数の論点を有機的に連関させながら事件のダイナミズムと近世史全体におけるこの事件の意味を掘り下げ、包括的な歴史像を描き出すことが今後の課顕である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付2年目に終えているはずの文献調査がいまだ完了していないが、予定していた通り、調査と研究は進化してきている。ローカルな領主領内部のミクロな関係をとらえる手がかりが得られつつあり、また近世期の王権統治の「ローマ化」に関する問題群へと視野が広がってきており、社団国家体制についても新たな光を当てる可能性を見い出しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画からの大幅な変更はない。 計画にそって、データをもとに文章化しつつ、必要な探査を続けていく。
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Research Products
(3 results)