2011 Fiscal Year Annual Research Report
樺太観光におけるまなざしの形成とマイノリティの表象
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22520812
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
宮下 雅年 北海道大学, 大学院・メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (90166174)
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Keywords | 樺太 / サハリン / 観光 / 故郷 / 郷土 / 墓参 / 引き揚げ / 恵須取 |
Research Abstract |
1.「樺太引き揚げ者」から成る「樺太恵須取会」の会員から往時の恵須取町の日常生活の模様について、残留ロシア人や朝鮮人鉱夫の状況も含めて、聞き取りを行い、会員が抱く「故郷」像の概要を把握した。 2.全国樺太連盟の機関紙『樺連情報』の精査を通じて「故郷」像の形成と変化を追跡、追究した。 3.恵須取第一小学校北海道同窓会の機関紙『夕陽が丘』および恵須取第二小学校同窓朋の会編『文集若草萌ゆる』等の精査を通じて「故郷」という概念の生成過程を追跡、追究した。 4.研究会「サハリンにおける多文化共生の過去・現在・未来」(平成23年7月16日、北海道大学)に参加し、学内外の研究者と持続的に情報交換をすることになった。 5.「樺太こころの旅」と銘打ったサハリン墓参ツアー(平成23年8月3日~9目)に参加し、ユジノサハリンスクとウグレゴルスク、シャフチョルスク間を移動しながら、今日の「故郷」訪問ツアーの概要を観察および参加者からの聞き取りを通じて把握した。 6.国際シンポジウム「海峡をまたぐ歴史」(平成23年8月27日、稚内北星学園大学)に出席し、日本人研究者およびサハリン在住のロシア人研究者から「海馬島」(モネロン島)の過去および観光地としての現在の状況に関する情報を得た。 7.研究会「戦後のサハリン社会をめぐって」(平成24年1月7日、北海道大学)に参加し、引き揚げなど戦後サハリンの人口移動の様態や韓国・朝鮮系住民の「離散家族捜し」の模様について情報を得た。 8.「樺太」の表象を絵画や版画に求める作業に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
<北>に向けられた日本人の憧憬の形成を紀行文等に探るという作業は、北原白秋、林芙美子、長与善郎らの作品を題材にしてすでに発表済みである。これが一般化する過程は、<故郷>が日本社会の近代化(あるいは都市化)の進展に伴って生じる漠たる喪失感を埋めるものとして想像/創造される過程と重なる。そこから始めた<故郷>の考察や聴き取りも順調である。今日のサハリン観光で再びそのような<故郷>の形成が実践されていることがわかった。果たせない課題があるとすれば、マイノリティ(特に先住民)はもっぱら珍奇な風物として表象され、現時点ではそれを乗り越えるような斬新な見方に未だに遭遇しないことである。
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Strategy for Future Research Activity |
調査対象をコトバからモノへ広げ、マイノリティ集団の工芸品等を通じた自己表現の有り様を追究するとともに、それを樺太観光の日本人がどのように受け止めていたか、たとえば朝鮮文化に向き合った柳宗悦のような理解者はいたのか、さらには、現在のサハリン観光においてアートがどれほどの関心事となっているのか、これらについて文献調査および現地調査によって明らかにする。
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