2011 Fiscal Year Annual Research Report
社会主義中国におけるエスニック・ジェノサイドに関する実証研究
Project/Area Number |
22520818
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
大野 旭 静岡大学, 人文学部, 教授 (40278651)
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Keywords | ジェノサイド / 中国 / 少数民族 / モンゴル / 文化大革命 / 内モンゴル自治区 / ウラーンフー / 民族自決 |
Research Abstract |
本年度内においては、当初の計画通りに主として「モンゴル族ジェノサイド」について調査と研究を実施した。「日本刀を吊るしたモンゴル人たち」と呼ばれる「過去に満洲国時代に日本に協力したモンゴル人」らから証言を収集することができた。 調査は夏季に内モンゴル自治区で実施した。現地調査では、日本の植民地的過去がどのように中国共産党主導の大量虐殺に利用されたかに焦点をあてた。まず、内モンゴル自治区の中部、すなわち過去に日本の統治を受けた地域、蒙彊政権がおかれていたフフホト市で証言と文献を集めた。次に、内モンゴル自治区西部の包頭市とオルドス市に赴き、1958年に青海省などチベット人居住地に派遣されたモンゴル人騎馬部隊の元兵士らにインタビューした。彼らは日本式近代教育を受けたモンゴル人で、チベット人の対中国蜂起を鎮圧した経験を有する。人民解放軍がチベットではたらいた集団的な虐殺について資料を集めた。彼らの証言を過去に入手した青海省での史料と照合し、比較研究ができるようになった。 調査で解明できたことは以下の通りである。中ソ対立が激しくなった1960年代、中国はソ連との一戦は避けられないと判断していた。ソ連が攻めてきた時に、「過去に対日協力した前科のあるモンゴル人たちは不穏分子と化す」、と見た政府共産党は内モンゴル自治区を軍事管理下に置いた。その間に大量虐殺と強制移住、それにジェノサイド強姦等が長期間にわたって断行された。共産党は対内的には日本の植民地的過去を清算する形で、対外的にはモンゴル人民共和国側に住む同胞たちとの同胞意識を絶ち、「中国人民」にモンゴル族を改造する目的で、大規模な殺戮をおこなった。ジェノサイドの実態については『続墓標なき草原』(岩波書店)を2011年8月に、理論的な背景に関しては『モンゴル人ジェノサイドに関する基礎資料4-毒草とされた民族自決の理論』(風響社)を2012年3月にそれぞれ公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2011年5月に、調査地の内モンゴル自治区で中国政府に対する大規模な抗議デモが発生した。中国人(漢人)主導の略奪的な開発に抵抗するためである。政府は弾圧を強め、各地で厳しい監視体制をしいた。加えて青海省や四川省などのチベット人地域でも同様な抗議行動が多発したことで、青海省入りが困難になった。それでも、実際に青海省などで1958年に鎮圧作戦に参加していた当事者たちから証言を収集できたことで、研究を計画通りに前進させることが確保できた。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、現地調査で入手した証言と文献資料をひきつづき編纂して『モンゴル人ジェノサイドに関する基礎資料』シリーズを公開していく。次に、チベット人側の証言と文献を整理し、逐次公刊する予定である。その第一段階として、アメリカの文化人類学者らの「チベット文革」に関するエスノグラフィを翻訳して2012年4月に風響社から出版する予定である。また、夏には中国南部の雲南省に入り、イスラームを信仰する回民らが1970年代に受けた虐殺の実態について調査する計画を立てている。同時に日本と外国の諸学会で研究成果を発表していく。
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Research Products
(9 results)