2011 Fiscal Year Annual Research Report
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22530045
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
今井 直 宇都宮大学, 国際学部, 教授 (70213212)
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Keywords | 国連人権理事会 / 制度構築 / 人権侵害対処機能 / 特別手続 / 普遍的定期審査 / 大規模人権侵害 / アラブの春 / 国際人権法 |
Research Abstract |
本年度は、本研究が昨年度10月の追加採択だったために実現できなかった人権理事会の会期傍聴・調査を行なうことができた(2011年9月の第18会期)。筆者は2009年の論文で「国家主導型の枠組みが強化されつつある」という人権理事会の現状認識を述べたことがあるが、これを検証する恰好の機会となった。2011年は「アラブの春」の影響が人権理事会にも及び、理事会創設以降の「停滞状況」を覆すような展開が見られたので、人権理事会の動向を詳細に追うとともに、自らの仮説の見直しも含む新たな視座を得ようとした。審議の状況に加えて、国連事務局担当官や国際人権NGOへの聞き取りもふまえて、新たな国際政治環境が理事会の行動や意思決定に少なからぬ変化をもたらしており、人権高等弁務官、特別報告者等の専門家、NGOの「復権」も一定程度見られることも確認できた。 人権理事会の人権保障メカニズムの2つの柱ともいえる普遍的定期審査制度と特別手続については、「アラブの春」の文脈の中で観察する限り、異なる評価に至らざるをえない。普遍的定期審査は人権侵害事態への対処として機能したようには見えない。とりわけリビアやシリアに関する審査は、実態や国連機関の動向を反映せず、人権侵害事態への対処として当該国に圧力を及ぼすという機能からはかけ離れていたといわざるをえない。これに対して、特別手続は人権高等弁務官とともに、人権理事会に対して注意喚起や助言を行い、理事会の審議や決議の「引き金」となる役割を果たしていたといえる。もっとも、2011年に見られた理事会の動向の継続は予測不能であり、むしろ常態化は困難とも思われ、人権高等弁務官や特別報告者等の行動を通じて一定程度実質化しつつあるとはいえ、「引き金メカニズム」が制度的に確立、整備されることによって担保されることが肝要である。 なお、研究課題に直接関わる本年度の研究成果として、「国連人権理事会の大規模人権侵害への対処機能に関する一考察」(国際人権22号、2011年11月)がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「国家主導型の枠組みが強化されつつある」という従来の人権理事会に対する現状認識は、「アラブの春」における理事会動向をふまえて一定程度見直ししなければならないとはいえ、国家、人権高等弁務官、特別手続における専門家、NGO等の行動に影響を及ぼす様々な要因が顕在化していることにより、現実に即して理事会の人権保障メカニズムの機能を評価する上で、多様な材料や視点を得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
アナン前事務総長は、人権理事会が追求すべき人権侵害問題に対するアプローチとして「二重のアプローチ(dual approach)」について言及している(2006年11月の理事会第3会期へのメッセージ)。これは、特定国・地域の人権侵害事態に対処するとともに、普遍的取り組みを同時に実現するというものである。前者のメカニズムの典型が特別手続であり、後者のメカニズムが普遍的定期審査である。本年度も、この「二重のアプローチ」の実現が可能であるかという観点から、引き続き特別手続と普遍的定期審査を中心に研究を進める。その際、両者の制度の目的・性格を再度見直しした上で、それに即した評価、問題点の指摘、課題の提示を行いたいと考えている。
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Research Products
(3 results)