2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22530313
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
西垣 鳴人 岡山大学, 大学院・社会文化科学研究科, 教授 (40283387)
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Keywords | 郵便貯金 / 公的金融 / 民営化 / 民有化 / ユニバーサルサービス / 官業の特典 / 制約的ビジネスモデル |
Research Abstract |
申請者は平成19~20年度の科研費課題研究において、郵政民営化(2007年)以前について、郵便貯金事業の財務分析を通じた同事業の「官業の特典」及び「官業の制約」各々の推計を行い、「官業による民業の圧迫とは逆に、郵便貯金が民間との競争条件を悪化させている可能性を指摘した。 本課題研究では特典と制約を事業運営面と資金調達運用面とに分け、まず事業運営面に限定して、民営化以前の10年と民営化以降に関する推計を、再度内容を精査したうえで行った。そこでは特に民営化以降において特典が失われた半面、制約が事業運営面において一定の足枷となっている事実が明らかとなった。もう一方の資産運用面における推計と将来に向けた官民の競争条件に関するシミュレーションについては「暗黙の政府保証」「民業圧迫」といった問題の歴史的・国際比較的視点から慎重に作業を進めなければならないという認識が深まり、そうした認識の下で次に述べる23年度の研究が進められた。 第一は、22年度から続けてきた学説史的研究であり、わが国における郵便貯金等の民業圧迫問題を中心とする郵政論争を歴史的/構造的にとらえる作業をほぼ完成させた。そこでは、官による肥大化問題だけでなく、民業側の非競争指向、学術的な探究(特に国際比較研究)の不足、そして自律的パブリック(「新しい公」)の未成熟といった諸問題が横たわっている事実が明らかにされた。(『岡山大学経済学会雑誌』42巻1号及び4号に成果発表) 第二は、第一の研究と連動した、民営化が進む郵政事業(ドイツ、イギリス、およびニュージーランド)のリテール金融を中心とした国際比較研究である。そこでは、民営化後も公的な役割が期待される郵政事業会社にユニバーサルサービス等の社会目的を「維持させていく」ために、(1)社会目的実現の原資となる利益が確保できるように経営の安定・発展が図られていること、(2)その結果として得られた余剰が社会目的実現に振り向けられる実効的枠組みが存在すること、という二つの条件が示された。(『生活経済学研究』第35巻に成果発表)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画した推計とシミュレーションは途中段階だが、公的リテール金融の「望ましい在り方」についての探求は予想以上に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度における国際比較研究から得られた結論を、24年度はより多くの諸国、特に(オーストラリアやフランスなど)比較的民営化が遅れている諸国の場合に当てはめて再検証し、普遍性を高める方向で研究を推進する。 再検証で得られた諸結果を踏まえて、わが国の公的リテール金融の望ましい在り方を、資金調達運用面における特典及び制約の推計や将来のシミュレーションを含めて検討してゆく作業を進めたい。
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