2011 Fiscal Year Annual Research Report
独占形成期ドイツにおける環境闘争:化学工業を例として
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22530341
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田北 廣道 九州大学, 大学院・経済学研究院, 教授 (50117149)
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Keywords | 環境史 / 工業化 / 環境汚染 / 住民運動 / 化学工業 / 寡占的大企業 / 環境政策 |
Research Abstract |
2010年度に実施した史料調査・収集作業を踏まえて実証研究を進め、19-20世紀初頭ドイツ環境闘争における3段階仮説をおおよそ確認できた。「第2帝政期を環境史の分水嶺」とみるUekotterの所説を追認しつつ、認可審査における住民の抵抗排除を寡占的大企業形成のための「序曲」(Bayerl)と位置づけた。 (1)20世紀初頭の認可審査制度を特徴付ける-大変化があった。これまで住民の生活権保護のために、医療・建築構造の両面から審査を担当してきた郡医師が営業評議員と交替したこと、それと並行して地方名士から構成される「地区委員会」が審査窓口となったこと。同時に、科学的鑑定書の作成を担当する科学者の序列化が進み、中央政府(商務省)の音頭取りで、現地状況を考慮せずに限界値設定に代表されるように、環境問題は科学技術の進歩によって解決できるとの方向が打ち出された。 (2)そのような現地状況(住民の声と自治体の公衆衛生的理由からの反発)を不問に付し、認可制度における科学技術主義への重心移動の史的起源を考察するために、1891年バルメン警察署長から国王政府宛の書簡の内容に沿って1880年代半ばの2つの事例研究を取り上げた。ここでは認可審査の責任当局である国王政府が、現地状況を十分考慮して、慎重な判断を下していたなかで、抗告審を担当する商務省が、科学技術主義に基づく判断を下していたことを確認した。同時に、科学技術主義の浸透を窺わせるような「裁判において宣誓の上証言できる化学者」の資格をもつ職業が成立していたことも見た。 (3)20世紀初頭と対比するために、1845年認可制度導入直後に発生した環境闘争を検討するために、1828年創業のヴェーゼンフェルト化学会社の例を取り上げた。都市住民だけでなく、市当局・国王政府も住民の多い都市中心部への工場建設には批判的であったこと、市長・市議会は「都市共同体全体の利害」の観点から認可審査への参加を要求していたこと、都市経済の中核を担う多数の住民と市当局の抵抗にもかかわらず、科学技術主義の勝利(条件付きの認可発給)で幕を閉じたことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2010年夏、2011年2月の2度にわたり実施した資料調査・収集作業を踏まえて、都市バルメン・エルバーフェルトに立地する化学企業をめぐる環境闘争に関する実証研究を進め、以前仮説として提示していた見解をおおよそ確認できるような成果を得ている(詳細は、研究実績の概要を参照のこと)。
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Strategy for Future Research Activity |
2012年度には、次の2つの方向から研究を進め、成果を論文集にまとめる予定である。一つは、収集した史料に関する実証研究を進める。1880年代以降の寡占的大企業形成と認可闘争における科学技術主義の台頭に先行する1870年代の環境闘争の特質を浮き彫りにするために、2本論文を刊行し、実証研究の空隙を埋める。もう一つは、2011年度に集中的に購入した、米国環境史関係の文献に基づき、独米学界における最近の研究動向をサーベイ論文にまとめ、実証研究の学的位置づけを明らかにする。
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Research Products
(5 results)