2011 Fiscal Year Annual Research Report
等依存性原理を組み込んだ公正な分配の規範的理論の構築に関する社会学的研究
Project/Area Number |
22530512
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
盛山 和夫 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (50113577)
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Keywords | 等依存性 / 社会的公正 / 階層的不平等 / 機会の平等 / 包摂と排除 / 成長 / 少子化 / ロールズ |
Research Abstract |
本年度は、社会的公正問題を応用面で探求することが中心となった。階層的不平等に関する研究は、これまで漠然と「平等が望ましい」という規範的判断を背景に展開されてきたが、そのため、実証的データを説明したり理解したりする上で不可欠な理論的探求が欠落してきた。たとえば社会移動に関わる「機会の平等」概念は、あたかもそれが一義的に定まる事実的概念であるかのように想定されて使われてきたが、本研究は、「機会の平等」とはむしろ「階層的地位達成においていかなる平等を保証することが社会的に公正であるか」に関する規範的判断の一環として概念化されうることを明らかにした。また、近年の「包摂と排除」の概念は、あいまいではあるが、等依存性原理に近いロールズ的な公正の観点から階層的不平等にアプローチする試みであることを指摘した。 さらに、現代社会では、階層的不平等に加えて、社会保障制度をめぐる公正問題と貧困とが大きな課題となっているが、それらの背景にはマクロ経済状況の悪化がある。本研究は、マクロ経済とその成長を従来の「効率性」の規範原理ではなく、社会的公正の観点から分析し直すことを探求課題の一つとして取り組んだ。具体的には、(1)需要と供給の両面において経済的困難をもたらしつつある「少子化」問題に対しては、個人的選択の自由の観点だけでは一種の社会的ジレンマに陥ること、(2)財政政策と金融政策においては、たんなる財政規律、金融規律といった観点ではなく、政策がもたらすマクロ社会的な公正および厚生の観点での規範的判断が重要であることを論じた。 そのほか、社会的公正に実践的に取り組むための基盤としての社会調査のありかたと、社会学の理論状況の分析に関しても探求を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年間の研究を経て、実践的応用を活用した試行錯誤的検討を交えながら、理論モデルの構築に関わる基本的構想はほぼできつつあり、残りの一年間で、具体的なモデルの構築の作業に集中的に取り組むことになる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、具体的なモデル構築に取り組む。なお、この研究は、その後も、科研の採択の有無に関係なく、継続的に推進する予定である。
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