2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22530547
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
渡辺 伸一 奈良教育大学, 教育学部, 准教授 (70270139)
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Keywords | 社会学 / 公害 / 環境問題 |
Research Abstract |
わが国の公害発生地域においては、多くの被害者が公害病と認められることなく放置されてきた。水俣病でもイタイイタイ病でも、公害病患者と認められ権利回復された被害者は氷山の一角であった。このことは、大気汚染問題に関しても同様である。 1970年代の大分市では、新産業都市(新産都)の建設に伴う大気汚染による深刻な公害問題が発生していた。だが、国は公健法指定地域(第2種)とはしなかったし、県も健康被害の発生を認めることはなかった。もっとも、県は単に拒絶の態度をとったわけではなく、被害住民から集団移転の要求を突きつけられると、一旦は合意する。しかしながら、その後、さまざまな状況変化を口実に解決合意を反故にし(「移転先の地価が高騰した」「大気汚染レベルが下がった」等)、結局移転は履行されなかった。つまり、被害者は、二重の意味で放置されたといえる。 このような行政の姿勢は、被害者の精神的苦痛を加重させるような行為であるから加害性を持っているということができる。この加害性を、本研究では「解決合意不履行としての加害」と名付けた。本事例は、大気汚染被害者としての正当な要求(認定や救済)に拒絶で応える「追加的加害」だけでなく、「解決(=移転)合意不履行による加害」という行政の二重の加害性が見られた点で、わが国公害放置史において記憶されるべきケースと位置づけうる。
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