2012 Fiscal Year Annual Research Report
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22530649
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Research Institution | Osaka University of Health and Sport Sciences |
Principal Investigator |
辰巳 佳寿恵 大阪体育大学, 健康福祉学部, 准教授 (60331774)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 社会福祉関係 / 社会政策 / リハビリテーション / 労働 / 雇用 / 中途視覚障害 / 中途失明者 / 差別 |
Research Abstract |
本研究が目的とする、中途失明者のリハビリテーション過程における雇用・労働・経済問題を追及するにあたって、中途視覚障害を理由に、勤務していた民間企業を解雇され、民事訴訟による地位確認請求ならびに損害賠償請求を行った2事例について、裁判の経過と原告からの聞き取り調査をもとに、事例研究を実施した。以下にその概要を述べる。 <事例1>大学卒業後、大手カラオケ機器メーカに一般職として勤務していた30歳代男性は、在任中にレーベル氏病を発症し、身体障害福祉手帳2級程度の視力障害者となった。男性は休職期間中に、専門機関において、視覚障害者のための職業リハビリテーション訓練を受講し、音声PCを用いて、障害発症以前の事務処理能力を獲得した。しかしながら企業は休職期間満了とともに自動退職としたため、男性は民事訴訟を起こした。平成23~24年時点では、仮処分裁判に勝訴、第一審勝訴で解雇無効の判決を得たが、企業側が控訴したため高裁での裁判に突入した。 <事例2>郵便局に30年以上勤務していた50歳代女性は、緑内障の発症により、身体障害者手帳5級を取得した。特に勤務に支障はなかったが、病気が進行した場合の働き方も含めて、身体障害者手帳の取得を直属の上司に相談したところ、上司から退職勧奨と思われる発言を受けた。女性は障害者になったことを理由に退職を勧められたことに強い精神的ショックを受け、うつ病を発症し、休職期間満了による自動退職となった。女性は障害を理由にした退職勧奨は障害者差別にあたるとして、地位保全と損害賠償を請求する民事訴訟を起こし、地裁で争うことになった。 事例1・2の裁判の経過、および原告本人を対象とした聞き取り調査から、中途失明者の雇用継続を実現するための問題点として、①相談・救済機関の量的・質的不足、②人権としての障害者の労働権についての認識不足、③障害者運動の衰退等が挙げられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
中途失明者の雇用継続の問題を追及するにあたって、研究開始当初はリハビリテーションセンターで管理されている事例から、リハビリテーション支援者の視点で事例分析を行う予定であった。その理由は、雇用継続問題の渦中にある当事者を研究の対象とすることに倫理的問題があり困難と考えられたためである。 しかし本研究の開始後、偶然にも2つの民事訴訟に遭遇し、「ともに障害者差別と闘い、研究者として問題を世に問いたい」という筆者の研究に対する姿勢を原告に理解していただき、詳細なデータの提供を受けられることになった。 民事訴訟の推移を追跡しながら、問題の発生から訴訟に至るまでの過程を詳細に当事者から聞き取ることが可能になったことによって、本研究が目的とする「中途失明者の職場復帰に有効な支援」に関する問題点と障壁の克服方法の追及を、最も現実的に生々しく考察することが可能になった。 しかしながら、研究の進め方も裁判の進行に合わせざるを得なくなり、2事例とも控訴審によって裁判が継続されたため予想以上に時間がかかり、データのとりまとめや、論文発表のタイミング等が大幅に遅れることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、本研究は現在進行中の2つの民事訴訟を追跡調査している。もっとも有効なデータを得ることが可能になった反面、裁判の進行によって研究の進度、論文執筆が可能になる時期、公表可能な時期が左右されることにもなった。 本研究が対象としている2つの事例は、両事例とも裁判が継続中であるため、その推移を見守りながら研究費の一部を来年度に繰り越し、有識者会議や報告集会の開催を検討することとした。
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