Research Abstract |
本研究の目的は,トラウマに関する思考からの距離化を促進するよう構造化された(構造化)筆記開示が心身健康・高次認知機能に及ぼす影響を検討することであった。外傷後ストレス反応を測定する尺度において中程度以上の得点を示す大学学部生(23名)が実験参加者であった。実験参加者は,1日20分間,合計3日間,筆記開示を行った。構造化開示群(8名)は,セッション1では,自身のトラウマの中で,最も苦痛を感じる場面について開示し,その時に浮かんだ否定的思考を筆記した。セッション2では,類似した状況に居る友人に対する助言の筆記を通じて距離化の促進が図られた。セッシゴン3では,再度,セッション1同様に,苦痛を感じる場面,その時に浮かんだ否定的思考を筆記した。自由開示群(7名)は,従来から行われているように,自由に,トラウマに関する感情や思考を筆記した。統制群(8名)は,実験後の予定について,感情を交えずに筆記した。操作の妥当性を検討したところ,構造化開示群における距離化は促進されていたことが一定レベル確認出来たが,統計的に有意なものでは無かった。また,全群で外傷後ストレス反応について実験前から実験1ヶ月後,3ヶ月後にかけて得点の低減が有意に示された。しかしながら,構造化開示群固有の効果を見いだすことは出来なかった。また,高次認知機能の指標としてのワーキングメモリの増進に関しては示されなかった。出来事に関する否定的思考からの距離化を促進する構造化開示の効用が,一定レベルにおいて示唆された点において本研究は意義を有するが,サンプル数は少なく,その手続きに問題が認められ,今後,サンプル数の増大,より効果的な手続きの開発が必要と考えられた。本研究の成果は,国内外学会で報告された。また,その課題については国内研究会において検討された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
出来事に関する否定的思考からの距離化を促進する手続きの開発を目的としているが,実験結果からは,その目的の達成は不十分であるため。また,十分なサンプル数を集めておらず,実験結果の評価そのものにも問題点が残るため。
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Strategy for Future Research Activity |
まず,十分なサンプル数を確保するため,昨年度同様の手続きで追加実験を行う。これによって,昨年度に実施した実験の結果の適切な評価を行うことが可能となる。また,このようにして収集されたサンプルの中で,健康および高次認知機能の指標に関して効果を示しているケースにおける筆記内容の分析から,距離化を促進しうる教示を開発する。これらを通じて,より距離化を促進する教示の開発を行うことが可能となる。
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