Research Abstract |
2年目にあたる平成23年度は,1.想起意識の展望と理論的な検討,2.想起意識に関する実証的な検討,を行った。 1.想起意識の展望と理論的な検討 記憶研究の中で想起意識が問題となったのは,主として(a)潜在記憶,(b)無意図的(不随意的)想起,(c)展望的記憶,の研究においてであった。しかし,そのいずれにおいても,それぞれの記憶をいかに定義し輪郭づけるかの問題としてのみ想起意識が取り上げられ,そこで問題となった想起意識そのものの機能や機構について掘り下げて論じられることはなかった。本研究では,これらの研究で論じられた種々の想起意識をそれぞれ取り上げ,先行研究ですでに分かっている性質について整理するとともに,想起のメカニズムとどのように関係しているのかに位置づけながら,理論的な検討を行った。 2.想起意識に関する実証的な検討 先行研究で論じられてきた想起意識は,記憶システムや記憶の過程と対応づけられる(より正確には,対応づけられて論じられてきた)ものであった。しかし,想起に伴う意識には,想起された情報が「すんなり思い出される」のか,それとも「はっと閃くように思い出される」のかなどのように,想起された情報が意識にのぼる際に伴う意識的・主観的経験もある。そこで,このような想起経験の違いが何に起因するのかを探るために,校歌の歌詞を想起してもらい,どのような意識的・主観的経験が伴うかを調べる研究を行った。その結果,小学校の校歌の方が,高校の校歌よりも,「はっと思い出される」経験が多いということが明らかになった。この結果は,想起の意識的・主観的経験の質が,経験してからの経過年数と関係していることを示しており,記憶表象の時間的な変化と想起の意識的・主観的経験との間に関連があることを示唆している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成22年度において,予定していた定性的な分析に先立って定量的な分析を行ったために,約一ヶ月の遅延が生じた。しかし,これは,当初の計画では想定していなかった新しい発見を示唆するデータが得られたためであり,その分析が,本年度の実証的な研究に結びついた。これらを勘案すると,全体として概ね順調に推移しているものと認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
想起意識の網羅的な把握と理論的な検討については,概ね峠を越え,集約に向かっている状況である。従って,今後は,まずは想起意識の網羅的・傭瞰的な把握と理論的な検討に重点を置く予定である。そして,理論的な検討があるていど煮詰まってきた段階で,その成果を踏まえ,現象確定あるいは仮説検証的な実証データの収集を行う予定である。
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