Research Abstract |
本研究は,表情識別能力の個人差を視線行動との関連において検討することを目的としている。 平成23年度研究では,まず,大学生参加者を用いて,筆者らが開発した検査課題を用いて表情識別能力を測定した。実験結果に対して因子分析を適用したところ,6基本表情に対する表情識別能力は,喜び表情に対する感受性と,喜び以外の表情(悲しみ,驚き,怒り,嫌悪,恐怖)に対する感受性の2つの因子から構成されることがわかった。また,検査課題で用いられた表情刺激を観察しているときの参加者の視線行動を記録し,目,鼻,口に対応する領域に対する注視時間との関連を調べたところ,喜び表情に対する感受性と視線行動との間には有意な関連性は認められないが,喜び以外の表情に対して敏感な参加者は,目に対する注視時間が長く,口に対する注視時間が短いことがわかった。 この結果は,喜び以外の表情認識が大きく障害される扁桃体損傷患者が,顔を観察するときに目に対して注意が向かないことや,喜び表情は他の表情に比べて顔の下半分の情報だけでも高い正答率をもつこと,加齢によって喜び以外の表情認識能力が低下する高齢者において,表情を観察するときに顔の下半分に注意が向きやすいことなどと整合する結果である。 そこで,平成23年度研究においてはさらに,高齢者が表情刺激を観察するときの視線行動を測定し,その特徴を探る実験を行った。実験の結果,高齢者は大学生参加者よりも目に対する注視時間が短く,口に対する注視時間が長い傾向をもつことがわかった。このほかの結果の詳細については,現時点ではまだ分析中である。 さらに平成23年度においては,同様に表情認識能力の障害が顕著に見られる自閉症スペクトラム障害をもつ幼児・児童を対象に,表情識別能力を定量的に測定する研究を実施中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,おおむね計画どおりに進行中であるが,高齢者を対象に視線行動を調べる実験を行ったところ,高齢者においては大学生などの若者と比べて視線測定が不安定であり,特に視線が下方向を向いたときに瞼が瞳孔にかぶさってくるために,多くのケースでデータ欠落を生じることがわかった。有効データの取得率が10%台と低いため,今後は,高齢者についてより多くのデータを収集するよう計画中である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では,自閉症スペクトラム障害児を対象とした研究も開始したところであるが,上の達成度評価で記述したように高齢者データの収集がまだ十分でないことから,補助期間内の研究においては,当面,高齢者で有効なデータを増やしていくことに集中して行うよう計画している。
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