2012 Fiscal Year Annual Research Report
偏光の時間変動を利用した活動銀河核ジェットの磁場構造の研究
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22540252
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
植村 誠 広島大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (50403514)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 光赤外線天文学 |
Research Abstract |
1. 典型的なブレーザー「BL Lac」の偏光データ解析:活動銀河核ジェットの構造と変動機構を明かにする目的で、典型的なブレーザー天体「BL Lac」の偏光データを解析した。解析には、本課題で開発した、圧縮センシング技術を利用したジェットからの放射成分分離モデルなどを用いた。その結果、この天体には2つの異なるタイムスケールで変動する放射源が存在することがわかった。また、互いの放射源には明らかな相互作用が見られず、数パーセクほど互いに離れた位置に存在することを提案した。ブレーザーからの放射が複数成分の重ね合わせであることは従来から示唆されていたが、それぞれの位置関係について踏み込んだ研究は少なく、貴重な知見が得られた。これらの成果は査読論文として2013年4月の出版が既に決定した。 2. 降着円盤の構造解析:これまでに得られた降着円盤の幾何構造の研究成果をさらに発展させるべく、理論研究者との共同研究、及び、輝線スペクトルデータを使ったドップラートモグラフィーの独自モデルの検討を行った。理論研究者との共同研究では、SPHシミュレーションによって降着円盤が極端に大きく膨張した際の挙動が始めて本格的に調べられた。ドップラートモグラフィーについては、総変動最小化法を用いた新しいモデルを検討し、試験的な解析を行った。その結果、従来の最大エントロピー法を用いたモデルよりも、より局所的な構造が正しく再構成されることがわかった。既に得られている円盤の幾何構造と、輝線の輝度分布を比較することで、降着円盤の密度や温度の分布について、全く新しい研究手法を開発することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、ブレーザー天体から放射される偏光した光を各成分ごとに分離するモデルを構築し、それを実際のデータに適用することで新たな知見を得ることを目的としていた。この分離モデルは既に開発しており、実際のデータを使った解析も行い、いくつかの成果は発表済みである。特に、この手法を用いてブレーザーの代表的な天体である BL Lac や OJ 287 を解析し、偏光光源の長期的な減衰や方位角の振動などの兆候が明かになった。当初は計算時間の短縮を目的にGPU計算機の利用も検討していたが、実際には計算コードの簡単な並列化によって問題は生じなかった。これによって、当初計画していたように研究は進展している。 当初の計画以上に研究が進展している点は、降着円盤の構造解析や時系列データ解析などに本研究で開発したベイズ的なモデルを応用して研究が進んだ点である。100次元程度のマルコフ連鎖モンテカルロ法によるモデルの最適化や、圧縮センシング的手法を応用した逆問題の解法などモデル計算の観点から新しいノウハウを得ることができた。それらを応用して実現した、降着円盤の幾何的な構造の推定や、最大エントロピー法では再現できないような局所的な構造をもつ円盤のドップラートモグラフィー、または周波数空間での信号のスパース性を利用した周期解析法の開発などは、本計画の副産物であり、今後の発展がおおいに期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本計画は1年度を残すのみとなったため、今年度は成果の発表や研究の将来の発展性の検討に注力する。ブレーザー天体の偏光観測による研究成果については国内5件、海外2件程度の研究会に参加し、成果を発表する予定である。また、本研究のこれまでの成果をさらに発展させるため、降着円盤や時系列解析の新しいモデリング手法の研究も行う。具体的には、降着円盤からの輝線放射源の輝度分布を再構成するドップラートモグラフィーという手法に対して、総変動最小化を用いたモデルを導入する。従来は最大エントロピー法を使うことが多かったが、局所化した構造を平滑化してしまう性質があり、この問題の解決を目指す。同様の手法は、降着円盤の食の光度曲線から円盤の輝度分布を再構成するエクリプスマッピングにも応用できる。これらのような降着円盤の構造の理解を深めることで、ジェットと降着円盤の相互作用について統一的な理解につながることが期待できる。時系列解析については、周波数空間で信号のスパース性を仮定した単純なモデルはすでに構築し試行しているが、さらに周波数空間での信号微分のまスパース性を仮定するモデルの有用性を検討する。特に、活動銀河核のようなランダムな変動の非均一なサンプリングデータに対して、有効なパワースペクトル推定方法を調べる。また、ジェットからの偏光光源の成分分離モデルについても、現状のものをさらに発展させた、より適切な現象論的扱いをしたモデルを検討する。
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Research Products
(20 results)