Research Abstract |
チロシナーゼは,活性中心に2つの銅を有する酵素であり,メラニン色素合成の律速段階であるL-チロシンからL-ドーパキノンへの変換を触媒する。放線菌チロシナーゼは,キャディと名付けたタンパク質との複合体の状態で合成される。キャディはチロシナーゼの活性化に深く関わっており,キャディによってチロシナーゼ活性中心へ銅が輸送された後,キャディは複合体から解離し凝集する。 本年度は,キャディによる銅輸送機構を明らかにすることを目的として,まず,チロシナーゼ・キャディ複合体の結晶に,銅含有溶液を所定時間ソーキングし,銅輸送状況を解析した。その結果,(1)およそ20時間程度で活性中心に1つの銅が取り込まれること,(2)およそ40時間程度で,2つの銅が取り込まれたものが観察され始めること,(3)およそ80時間程度で,2つの銅が完全に取り込まれることが明らかとなった。また,2つめの銅は,最初,1つめの銅から4.2Å程度離れた位置に導入され,時間経過とともに1つめの銅に近づき,2つの銅の間の距離が3.5Åになった。この構造変化に伴い,2つの銅の間に2つの分子(おそらく水酸化物イオン)が架橋するようになり,また,活性中心に存在した2つの水分子が脱離することが判明した。また,キャディ分子内には2つの銅結合部位が見いだされている。この銅結合部位に変異を導入すると,チロシナーゼの活性化に必要な銅イオンの濃度が上昇する,もしくは,活性化する能力を完全に失うことが明らかとなった。さらに,チロシナーゼの活性中心付近に形成されている水素結合ネットワークを破壊するように変異を導入した場合でも,活性化に必要な銅イオンの濃度が上昇した。これらのことは,キャディ中の銅結合部位とチロシナーゼの活性中心付近の構造が,銅の取り込みに関与していることを示唆している。
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