2011 Fiscal Year Annual Research Report
スピン軌道相互作用系におけるスピンネルンスト効果の理論と観測
Project/Area Number |
22560004
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
白崎 良演 横浜国立大学, 工学研究院, 准教授 (90251751)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
羽田野 直道 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (70251402)
中村 浩章 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (30311210)
遠藤 彰 東京大学, 物性研究所, 助教 (20260515)
長谷川 靖洋 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (60334158)
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Keywords | スピン軌道相互作用 / ナノワイヤ / 熱電能 / 量子振動 / InGaAs系 / モットの関係 / スピン流 / ネルンスト効果 |
Research Abstract |
本研究課題では、強磁場の下でスピン軌道相互作用(SOI)を持つ系の電子状態を調べ、熱流によってスピン流が現れる条件を明らかにすることと、SOIを持つ2次元系やナノワイヤのスピン流と磁化の関係を調べ、スピン流現出の新たな確認方法の検討を行うことを目的にしている。 平成23年度では量子ホール効果があらわれる、強磁場下の2次元電子系において、熱電能テンソル(ゼーベック効果とネルンスト効果)の振る舞いを表現する、不純物散乱の効果も取り入れた一般的な理論式を求めた。この理論は、量子ホール系の電気伝導度テンソルの理論式を用いて熱電気伝導度テンソルを求め、熱電能を導出するものである。電気伝導度テンソルは、不純物散乱を考慮した線形応答理論により求めている。ヘテロ接合系InGaAs/InAlAsの物性値を想定し、ここで導出した理論式を用いて熱電能テンソルを数値的に求め実際の測定結果と比べたところ、中程度の強さの磁場の下では、低温での熱電能テンソルの量子振動の振る舞いを概ね再現できることが分かった。また、ゼーベック係数の量子ピークに着目し、電気伝導度テンソルと熱電能テンソルの間の近似的な関係式として知られている、モットの関係式が成立する温度領域を理論的に調べた。その結果、この関係式が成立する温度領域の広さは不純物散乱の強さに関係しており、不純物散乱による寿命と概ね反比例する関係にあることが分かった。熱電能テンソルに現れる不純物散乱と温度の関係は、熱流により誘起されるスピン流に対しても、類似の形で現れることが予想される。 また、ビスマスナノワイヤのネルンスト係数に対するフォノンドラッグ効果を理論的に調べた。ネルンスト係数の量子振動のピークはワイヤ径に依存するが、100nm程度のところを境にしてピークのワイヤ径依存性が変化することが導かれた。 一方、試料の端の境界条件を再検討し、スピン軌道相互作用を持つバリスティックなナノワイヤの電子状態を厳密に求める理論を定式化し直した。従来の輸送係数の理論は周期境界条件をもとにした結果であったが、これにより、バリスティックなナノワイヤの輸送係数をより厳密に評価することが可能になる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ナノワイヤにおけるフォノンドラッグ効果、熱電能の量子振動に対する不純物散乱の効果の検討など、概ね順調に研究課題に着手している。SOIを持つナノワイヤの電子状態の理論を再検討したため、スピン流の輸送係数の計算を平成24年度に行う事になるが、その他は概ね計画にそって研究を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
ナノワイヤの理論の再検討を行ったため、当初の計画で平成23年度中に実行する予定だった理論研究の一部を、平成24年度序盤に遂行することとする。平成24年度序盤において、不純物散乱動果を持つ場合も含めたSOIを持つ2次元電子系の量子状態の解析を行う。年度中盤は、SOIを持つ2次元電子系における熱流とスピン流の輸送係数を理論的に求め、スピン流と磁化の関係を明らかにする。
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