2011 Fiscal Year Annual Research Report
清浄結晶表面の摩擦における原子論的エネルギー散逸機構の解明
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22560140
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
平野 元久 岐阜大学, 工学部, 教授 (50362174)
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Keywords | 超潤滑 / 摩擦の原子論 / トライボロジー / 摩擦転移 / 表面 / 界面 |
Research Abstract |
実験研究については、走査型トンネル顕微鏡によって超高真空下で摩擦表面間のトンネルギャップを制御した摩擦実験装置を改良し、摩擦表面の整合性に起因して現れる摩擦異方性を高精度計測し、摩擦異方性と超潤滑に関する理論予測を実証した。具体的には、自作した超高真空走査型トンネル顕微鏡装置を改良し、ピコニュートンの高精度測定を実現した。このために、W多結晶探針先端を加熱して得られるW(011)面と、対向するSi(001)面についてトンネルギャップを制御して互いにすべらせ、表面間の摩擦によって生じたW針の曲げ変位を計測して摩擦力を測定した。また、ピコニュートンの摩擦力測定精度を実現するために、光ファイバ先端面の屈折率を多層膜形成によって最適化し高フィネスの光共振器を形成した。 理論研究については、精密な原子間ポテンシャルの開発と超潤滑の安定性解析により理論の精密化を図り、実験と理論の直接対比により理論を実証した。具体的には、超潤滑状態が現実的な摩擦条件のパラメタ領域、例えば、接触面が含む不純物原子・格子欠陥などの結晶の乱れや、有限のすべり速度等に対して安定に存在するかどうかを調べ、超潤滑の安定性の条件を明らかにし摩擦と超潤滑の原子論を構築した。得られた成果は、1.多体効果を考慮した原子間ポテンシャルの開発多体効果を考慮した原子間ポテンシャルを第一原理電子状態計算と熱力学計算を用いて求めた。2.超潤滑の安定条件を明確化するために、超潤滑系の分子動力学計算により、摩擦ゼロの超潤滑状態が、(a)温度、(b)すべり速度、(c)不純物・格子欠陥等の結晶の乱れの存在に対して安定に存在する条件を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画したように、今年度までに、W(011)面とSi(001)面間の摩擦力測定方法と、W(011)面とSi(001)面間の超潤滑の安定性を解析する理論計算手法を確立した。
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Strategy for Future Research Activity |
[理論研究の進め方] 原子スケール摩擦の摩擦異方性は極めて特異な性質を有し、その直接観測は超潤滑理論の実証を与える。この摩擦異方性の予備計算によると、整合接触となる接触条件で摩擦は有限となり、格子ミスフィットに対してフラクタル的な特異パターンが現れることが理論的に予測される。この特異パターンの摩擦異方性の観測は本研究課題の摩擦理論の実証を意味し、この理論実証の学術的なインパクトは極めて高い。 [実験研究の進め方] 表面構造や化学的性質のよく知られたシリコン等の材料表面や、工業的に有用なフラーレン、ナノチューブ等の材料表面を対象として、超高真空下での清浄表面の摩擦異方性の観測を試みる。
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