2011 Fiscal Year Annual Research Report
長期保存標本のDNA解析による昆虫の侵入と分布拡大機構の解析
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22580061
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Research Institution | National Institute of Agrobiological Sciences |
Principal Investigator |
村路 雅彦 独立行政法人農業生物資源研究所, 昆虫相互作用研究ユニット, 上級研究員 (20355746)
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Keywords | 昆虫 / 乾燥標本 / DNA塩基配列 / 生物地理 / 分子系統解析 |
Research Abstract |
ミトコンドリアDNAを用いた昨年までの分子系統地理学的解析では、日本産のゴマダラカミキリ類は本州型、四国型、九州型、中琉球型および南琉球型に分化しているほか、一部に海外からの侵入集団、国内での移動集団が混在する可能性が示された。本年実施した乾燥標本を用いた解析では、これらのほか沖縄地方では過去に大幅な攪乱を受けている事が示された。今日本島では南琉球型が優先し北部に少数の九州型・中琉球型が分布するにすぎないが、1970~1990年代には南琉球型は限定的で、むしろ九州型が広く優先するほか、現在では見られない本土型個体が少数認められた。さらに1970年代頃の試料では、今日いずれの地方にも存在しない新規型が優先していた。以上より、沖縄本島では20世紀の後半に、まず本土・九州から、次いで台湾方面(南琉球型)からの侵入を受け、本来のDNA型を失ったものと想像された。これについては他のDNAマーカーを用いた解析で確認する。 また新鮮標本のミトコンドリアDNA偽遺伝子を用いた塩基配列の解析では、琉球-高知-静岡等の集団間にこれまで知られていない何らかの遺伝的交流のあることがうかがわれた。これを確認するため、乾燥標本を含む多個体についての偽遺伝子特異的DNA増幅をこころみているところである。 これらのほか本年度は新鮮標本を用いたrDNAおよびper遺伝子の塩基配列解析、結果に基づく乾燥標本からのそれら遺伝子の増幅法についても検討し、良好な結果が得られている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
試料の収集、解析方法の検討、多数試料を用いた集団の塩基配列解析ともに順調に成果が得られている。また重要な果樹害虫であるゴマダラカミキリ類については、これまで知られていなかった国内集団の遺伝的攪乱に関する興味深い知見が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)乾燥標本の解析に利用可能なnested-PCRプライマーの開発をすすめる。特にミトコンドリアDNAの一部の遺伝子、核内のミトコンドリア偽遺伝子、rDNAスペーサーおよびper遺伝子イントロン等の塩基配列の解析をおこなう。偽遺伝子では末端外側の塩基配列を特定し、本遺伝子を特異的に増幅する方法を開発する。rDNAやper遺伝子では、近縁別種間に共通の塩基配列を検出し、乾燥表標本による種同定に利用可能なプライマーを開発する。 (2)過去に得られた乾燥表標本と近年得られた多数の新鮮標本から得られたDNAサンプルについて、上記により利用可能となった領域の塩基配列の解析を実施し、過去における昆虫の動態について検討する。
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